知る・学ぶ/コラム全国に広がる「肉眼3Dビジョン」媒体主に聞く広告戦略&マスコット(前編)
2024.09.06
湾曲したディスプレイなどで専用の3D映像を放映することにより、視聴者に眼鏡などの補助道具を介さず立体映像を見せる「肉眼3Dビジョン」。デジタルサイネージの屋外設置が普及して久しいが、大型化・高解像度化・設置数増加のみならず、”表現”の追求により生まれた付加価値といえる。今回の特集では、各地の肉眼3Dビジョン媒体主に、設置経緯やこれまでの実績、そして今後の展望についてインタビューした内容を、全3回にわたって紹介する。
クロス新宿ビジョン│体に新宿区の模様の三毛猫
2021年夏に設置され、話題を集めた「クロス新宿ビジョン」および「新宿東口の猫」─。
階下のイベントスペースとともに運営するのは㈱クロススペースだ。収益化にも成功しており、ビジョンだけでの売り上げは前年比130%に達する(2023年3月〜24年2月)。
同社は不動産企業のグループ会社であり、親会社は道向かいのAN新宿ビルを所有しており、立地に魅力を感じ現クロス新宿ビルのある土地も購入。近隣のアルタビジョンの収益性も勘案し、あえて高層ビルとせず、同じ高さにビジョンを設置した。
ビジョンの広告出稿数を増やすには、認知度をアップしなくてはならない。そこで当時韓国で話題だった巨大な波の3Dビジョン映像に注目。委託運営する㈱ユニカに相談し、「日本の文化を象徴するもの」をテーマにコンペを開催。制作会社の㈱オムニバスジャパンが新宿区の形の模様が入った三毛猫を提出した。金魚も対抗馬になったが、そのインパクト、愛らしさ、表現力に満場一致で採用になった。
「新宿東口の猫」はランドマーク化に成功。新宿区の警察官にも任命された
「ビジョンを新宿のランドマーク、待ち合わせ場所にしたかったので、アートも良かったが、アイキャッチになるキャラが欲しかった。リリースはコロナ禍で人流が減少している最悪のタイミングかと思ったが、逆に世間に提供するエンターテインメントとして、瞬く間に話題をさらった」。(Founder・小谷周氏)
現在ではスマホゲームやアニメ、スポーツメーカーや外資系ブランド、時計メーカーなど様々な広告主が3D広告を放映し、猫とのコラボも実施している。ビジョンと階下のイベントスペースを連動させたプランも提案し、活用されている。
広告主には「放映スケジュールを事前告知することは不可能な都市もあるが、新宿はスケジュール発信可能である」とアピールし、SNSとメディアミックスを重視している企業などから支持されている。さらにファン団体などが「推し」のために出稿する応援広告も3Dで放映されることがある。
「20年ごろは屋上看板の価値が低下し困っていたが、アイキャッチとなる3Dの『猫さま』などを放映することで価値が見直され、未来を感じられるようになった」。(同氏)
8月には「新宿東口の猫」の新作映像を放映。来年以降は「新宿タイムズスクエア化計画」を進行していく。AN新宿駅前ビルを建て替えて複数のビジョンを設置、駅前に彩りをもたらす予定だという。
アルタビジョンも25年に放映が終了するが、いずれ新たになるまで、複数のクロス新宿ビジョンで駅前の彩りを絶やさない考えだ。
上野広小路口ビジョン│ダイナミックな身体表現が可能なパンダ
JR東日本は1月、上野駅広小路口に「上野広小路口ビジョン」を開業した。
この媒体は同社の掲げる『Beyond Stations 構想』の一環である「イマーシブなメディア空間」に基づき、サイネージと一体的にイベント実施が可能な空間を有する上野駅広小路口を設置場所に決定した。
上野駅利用者に同ビジョンへの親しみを持ってもらうため、象徴キャラクターには上野で愛される「パンダ」を起用。錯視を用いた飛び出す演出を通じた3D表現が施されているが、最大の特徴は歌舞伎や東北の祭りをはじめとした「文化」をその動きで表現していることにある。
人間に近い動きだけではなく、勢いある感情表現も特徴的
「今後、文化がつどい、交錯する上野の土地柄を踏まえ、地元・地域文化施設・企業各社と協力し、あらゆる文化を上野駅で発信する存在として、このキャラクターを育てたいと考えている」(マーケティング本部 まちづくり部門・福見恒マネージャー)。
企業広告としては、㈱龍角散による龍が3D表現されたもの、前述のパンダによる時報枠に㈱マルタイの企業ロゴを掲出したものが放映された。また自社広告として、北陸新幹線敦賀延伸に合わせて、福井県の恐竜を3D表現して放映した。
上野駅は『文化創造HUB』をコンセプトに掲げ、東京藝術大学や地域企業と連携。アート・音楽、地域・生活文化、日本芸能を主軸に、上野広小路口ビジョンを通じて魅力ある文化発信をしていく考えだ。
また広小路口には同ビジョンとあわせて「ポレイア広場」が整備されている。放映される広告映像にあわせて同広場で実物に触れられるイベントを展開するなど、両者が連動したメディアとしての活用が期待される。
AKIBA “CAP”│秋葉原が大好きなラッコ
JR東日本は今年4月から、秋葉原駅中央改札外に大型湾曲サイネージと商空間を一体型にした媒体「AKIBA “CAP”」を開業した。
この媒体は「上野広小路口ビジョン」と同じく、「イマーシブなメディア空間」として整備されたもの。秋葉原駅ではデジタルサイネージと商空間を組み合わせた展開に一定の需要があると見込み、両者を一体運営する「駅型ショールーミングスペース」という形態になった。
商空間を秋葉原の顔に見立て、その上に被った帽子(CAP) を意味した媒体名だ
秋葉原駅は同社調べで1日あたり約21万人の乗車人員があり、また中央改札の利用率は全体の3割を超える。同媒体は中央改札正面に位置し、駅利用者のほか、左右の出入口を通過する人々にも抜群の視認性があることから、情報発信を通じて人々とつながるのに適した場所と判断された。
同媒体のマスコットは「ラッコ」。企業広告の合間にアイキャッチとして、ゲームや漫画を楽しむ姿が放映されている。
「池袋駅にいけふくろう、上野駅にパンダ、渋谷駅にハチ公がいるように、各駅にはアイコン的な動物が存在している。同媒体のラッコは、秋葉原が大好きな『秋葉原っ子』(アキハバラッコ)の意味を込め、また貝を持つ姿がゲームコントローラーを持つ姿に重なり地域の特徴を想起させることなどを総合的に勘案し、秋葉原駅の新しいアイコンとなることを願いモチーフとした」(マーケティング本部 まちづくり部門・福見恒マネージャー)。
同媒体は2024年度については㈱Yostarの1社買切りにつき、開業から現在まで同社の広告出稿のみ。駅利用者が大型サイネージで放映したコンテンツを視聴し、サイネージ下部の商空間で商品やサービスなどを体験することで、企業や商品の世界観をより深く体験でき、新たな発見につながる場になることが期待される。
シブハチヒットビジョンなど│秋田犬のカラクリ時計
㈱ヒットは、大型屋外ビジョンの〝肉眼3D〟広告放映の研究を2019年から開始、20年に入って商品化プロジェクトを本格化した。
その後、プロトタイプ映像の制作やビジョンでのテスト放映を積み重ねた21年7月、「シブハチヒットビジョン」(東京・澁谷)および「ツタヤエビスバシヒットビジョン」(大阪・心斎橋)で第1弾の肉眼3Dの広告放映を実施した。
超巨大”秋田犬”3Dからくり時計の1シーン
さらに同年9月にはL字型屋外ビジョンで3D広告を放映できる「表参道ヒットビジョン(現OMOSANシンクロ)」(東京・表参道)を稼働してきた。
同社のオリジナルキャラクターは、「秋田犬」と「フクロウ」(池袋のみ)。「秋田犬とコラボレーションするスタイルで広告主のキャラクターを3D化するケースもあれば、広告主のキャラクターを使った肉眼3D動画を放映している」(同社広報担当者)。
秋田犬のデビューは22年7月の「シンクロ7シブヤヒットビジョン」と「シブハチヒットビジョン」の合計8面を使用した超巨大”秋田犬”カラクリ時計動画。日本最大級のデジタルサイネージ「シブハチヒットビジョン」が渋谷駅ハチ公口前に位置することから、秋田犬をキャラクターにした動画を作成している。
また、最新事例として「ツタヤエビスバシヒットビジョン」では初となる〝秋田犬3Dコラボ広告〟を制作。7月15日から8月11日まで㈱TCLジャパンエレクトロニクスとコラボした、肉眼3D映像を放映している。
今後について同社の担当者は、「当社が提供する『DOOH』に特化したクリエイティブ制作サービスは、国内の屋外広告専門会社では初の取り組み。屋外広告のリーディングカンパニーとして国内外で話題を集める〝肉眼3D〟のクリエイティブだけでなく、2D素材によるDOOH向けのクリエイティブにも注力していきたい」(同)。
※本記事は『総合報道』2024年8月5日号に掲載されたものです