知る・学ぶ/コラム明治が挑んだ、あえて何も足さない真っ白な広告 「この商品にしかできない」印象の残し方
電車広告駅広告
2024.03.19
2023年3月27日、明治は新商品「明治 Dear Milk」(以下、「Dear Milk」)を発売。新たなプロモーションを開始した。同商品は乳製品のみの原材料でつくられた、それ以上「何も足さない」ことが特長だ。そのシンプルさと魅力を伝えるために“真っ白な広告”を採用し、トレインジャックを実施。何も足さない広告演出はどのように企画されたのか、メディアプランニングから効果測定までのストーリーを探る。
2023年3月に関東地区限定で発売を開始した「Dear Milk」。実は、その以前から「明治極秘アイス試食会」と題し、商品情報の公開を行っていた。商品を担当する吉岡氏は、当初はターゲット層を30代から40代の女性と想定していたと話す。「アイス好きの方はSNS発信が活発的な傾向があります。『Dear Milk』は味に自信がある商品ということで、まずはアイスファンから、味にまつわる“情報漏洩”を試みようと、実施したのが『明治極秘アイス試食会』でした」(吉岡氏)。
300名限定のイベントには、8000名近い応募が集まり、試食会参加者によるSNS発信も狙い通りに活発化。発売前からファンを巻き込むことで、SNSを通じて当初のターゲット層へ情報が届くことを想定していた。
同商品の斬新なプロモーションはまだまだ続く。発売後には、渋谷駅地下と東急東横線車両内にOOHを掲出。競争が激しいアイスクリーム市場、原材料が乳製品のみという独自性を訴求するために生まれたのは、車内を「Dear Milk」の世界観で飾りつけた「何も足さない」真っ白な広告だった。
「デジタル広告と異なり、電車内の広告はいざとなったら目を背けられる、“好意的な強制視認性”があるのでは。だからこそ、心が動く体験につながると感じる」と野口氏。
違和感のあるシンプルさで生活動線上にフックを
前述のように、狙ったターゲット層へ確実に届けるためにはデジタル広告やSNSで広告を回したほうが、効果が出現しそうな印象だ。なぜ同社はデジタルではなく、屋外広告を選んだのか。その理由について、明治 宣伝部の簑和田氏は「限られた予算の中でも、メディアや通行者によって、十分に拡散を狙える手段だと考え」と説明する。
「『Dear Milk』は、アイスクリームの中では高価格帯です。そのため、ターゲットは30~40代の女性や主婦層に設定しました。ターゲット層が普段から利用する公共交通機関を考慮して、渋谷駅構内だけではなく、東横線での“車両全体が真っ白になる”トレインジャック展開も決めました」(簑和田氏)。
制作を担当した東急エージェンシーの岸氏は広告制作の際、消費者が広告に接触したときに起こる違和感を起点とした体験設計を意識したと振り返る。真っ白な広告はいわば、同商品の最大の特長である“原材料が乳製品のみ”という点を最大限表現したものだ。その広告を全面に施した、真っ白な車両に乗り合わせると、生活者には違和感が生まれる。「あまりに真っ白い広告を見ると、生活者はきっと良い意味で違和感を抱くはずですよね。この『真っ白から生み出される違和感』から、“なぜ白か”と考え、調べるとその先の行動を仮定。生活者の方から一歩進んで興味を示すことで、理解が体験に変わると思うのです」(岸氏)。
求めたのは認知ではなく理解 舞台装置型ブランド体験
同じく制作を担当するSTAGEの野口氏は、広告接触者に対して共感性を高める効果をもたらす「舞台装置型ブランド体験」発想を踏まえて説明する。「生活者を“演者”と見なし、街や交通などを“舞台”と考え、リアルな体験に焦点を当ててコミュニケーションストーリーを構築する体験手法です。屋外広告の展開は、どこを舞台にして話題を着火させ、ファンを巻き込むかが大事だと考えています。今回は、電車内という閉鎖的な空間(舞台)でブランドの世界観をつくりあげ、全てが真っ白な空間で圧倒するような広告体験を提供しました。真っ白な広告に興味を持って、写真を撮って、調べてみる。そして広告の意図まで知った上で、“私しか知らない情報かもしれない”と、SNSで拡散するー。認知から入るのではなく理解をつくるクリエイティブとして、今回提供したような、感覚に訴えかける“体験”が必要不可欠なのです」(野口氏)。
車内の他、渋谷駅地下にも掲出。商品名やコピーにはインクを使わずニス塗りで表現し、近くで目を凝らさないと詳細は見えない。一貫した世界観で、印象に残るOOHに仕上げた。
商品らしさを全面に 一貫した世界観露出の効果は
世界観の軸を定めて、一貫したブランドプロモーションが成功した本施策。広報・PR活動としての活用側面も大きかったという。そのため、このOOH広告においてメインのKPIとして設定したのは、メディアの露出件数だった。
一般的に、OOH広告は大規模で広範囲な視認性を持っているため、多くの人にアプローチできる一方で、具体的な反応や効果の計測が難しい特徴がある。また、単純な数値だけでなく、ブランドや製品に対する消費者の感情や認識にも影響を与えるOOH施策の効果はどうだったのだろうか。
「ターゲット媒体を含む、300近いメディアでの露出を獲得し、施策の裏コンセプトとなる『明治の本気』を言及するポジティブな記事が多く見られました」(簑和田氏)。
本施策のヒットを受けて、2023年8月からは第2弾となるOOHを実施。引き続き、同商品にしか出せない世界観を見せてくれそうだ。
※本記事は月刊『販促会議』2024年1月号に掲載されたものです。