知る・学ぶ/コラム2024年国内外OOHトレンド予測 フォーマットの多様化でアイデア広がる
駅広告
2024.04.10
国内で増加傾向にある、デジタルサイネージ。海外ではどのようなトレンドが生まれているのだろうか。LIVE BOARDの現王園章太さんが2023年のトレンドを踏まえ2024年のテーマを解説する。
大型メディアのフォーマットの多様化
まずひとつに、2023年は海外で大型サイネージのフォーマットの多様化が顕著でした。これまでは大型メディアでもテレビCMと同様の16:9が基本型でしたが、あまりその形にこだわらなくなってきている気がします。
たとえば2023年9月に一般公開された、ラスベガスにある球体の形をしたアリーナ「Sphere」。球体の高さは約110メートル。その内側はもちろん、外側にもLEDが張り巡らされており、そこで映し出される球体の映像は大迫力です。また2022年にオープンしたロンドンの「Outernet London」は、ビルがまるごとデジタルサイネージになっているようなエンタメ施設。外壁が超大型サイネージに覆われていて、外から見てインパクトがあるのはもちろん、内部も部屋の上部と四方がLEDパネルで覆われており、こちらもすごい没入感。どちらも自社の施設に関連した告知も放映しつつ、広告の放映も行っています。
ラスベガスにある球体の形をした高さ約110メートルのアリーナ「Sphere」。その外側もデジタルサイネージになっており、インパクト大。©Sphere Entertainment
こうした海外のサイネージのフォーマットの多様化に伴い、国内でも変化が予想されます。大型サイネージの設置が増える一方で、設置できるスペースには限りがあります。たとえば駅構内の柱を丸々サイネージにする、施設の階段壁面が全てサイネージ化されるなど、限りあるスペースを活用したユニークな媒体の開発がより進んでいくのではと考えています。
また同時に、広告主も特殊なフォーマットのサイネージに対応する専用クリエイティブをつくることに積極的になってきている印象です。海外ではOOHにタレントを起用することが日本と比べて少ないので、クリエイティブの面では自由度が高く、さまざまなアイデアを試せることが後押しになっていますが、国内ではサイネージメディアの普及に伴い、サイネージに特化したクリエイティブを制作する会社も増え、コストが下がってきたことで、より新たな表現が登場すると考えています。
数とターゲティングで印象付けるネットワーク型DOOHが活性化
2つ目は、単体のOOHのビジュアル的なインパクトではなく、掲出面数と細分化したターゲティングで訴求をするような、ネットワーク型DOOHを活用した広告です。
2023年のカンヌライオンズのアウトドア部門でグランプリを受賞した、イギリスの航空会社British Airwaysの企画「A British Original」が象徴的でした。同社は旅行客のインサイトから、人が旅をする理由を抽出。国内の主要都市の515のDOOHを含むOOHで、掲出する場所、屋外メディアの種類、その場を通るであろう人々を加味したコピーを制作。コピーは時間や天気、ニュース内容などによって変化します。1カ月にわたり実施されました。
イギリスの航空会社British Airways による企画「A British Original」。アンケートで集めた「人が旅する理由」を、国内の主要都市で、サイネージなどの515 の媒体に掲出。内容は時間や天気、ニュースの内容などに合わせて変化させた。
また同じくイギリスの携帯会社EEは2022年、ネットワーク型DOOHを活用して夜に帰宅者を安全に送り届けるための「Stay Connected at Night」というキャンペーンを実施しました。42カ所に設置されたDOOHでは、リアルタイムの交通データから道順を割り出し、夜遅い時間になってもその人が無事に帰れるように、ARで道順を示す施策です。
イギリスの通信会社EEが学生の多いマンチェスターで実施した「Stay Connected at Night」というデジタルサイネージを用いた企画。ナイトスポットなどにサイネージを設置し、夜中に帰宅する学生に街の情報をシェアし、安全なルートで帰宅できるようにサポートした。
用いるDOOHの面数が多ければ多いほど、また表示内容がカスタマイズされていればいるほど、バリエーションが豊かなぶん、「私が見たのはこの内容だった」とSNSでの多様な発話が生まれやすい手法です。ご紹介したのは海外の事例ですが、国内でも、コンビニ内サイネージやエレベーターサイネージ、マンション内サイネージなどはここ数年で面数が急激に増えています。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンが2023年8月に「#USJぶっとび看板」と称し、渋谷エリアに「USJこの先右折直進500km」など位置情報を活用したポスター広告を掲出していましたが、こうした企画もネットワーク型DOOHの活用で、今後より幅広い用途で実施される可能性があります。
DOOHの効果の可視化が進む
さらに2023年から24年にかけてのトレンドとして、OOHのブランドリフト効果とパフォーマンス、その両面での効果検証が進んでいくと考えています。
DOOHがDSP(広告会社が広告の費用対効果を最適化するためのプラットフォーム)やSSP(媒体社が広告収益の最大化を支援するためのプラットフォーム)と接続されていくことにより、DOOHがテレビCMやデジタル広告などと連動して展開された時の効果を計測できるようになり、それによってDOOHのクリエイティブもより訴求力のあるものを提案していけるようになるはずです。
以上の3つを踏まえて、今後私が着目しているのは、「キャンペーンにおいてインパクト型のサイネージとネットワーク型のサイネージをどう組み合わせるか」ということ。従来は分断されがちだったそれぞれの特性を活用し、連動させることができれば、より広告主が満足するような企画が生まれるはずです。たとえば渋谷エリアでの大規模なインパクト型OOHは昨今よく目にしますが、渋谷に加えて都内の広域でネットワーク型のOOHを掲出して、話題化を強め、かつその効果をきちんと計測するなど。どんな融合の可能性があるのか、注目していきたいところです。
※本記事は月刊『ブレーン』2024年3月号に掲載されたものです。