知る・学ぶ/コラム全国に広がる「肉眼3Dビジョン」媒体主に聞く広告戦略&マスコット(中編)
2024.09.11
湾曲したディスプレイなどで専用の3D映像を放映することにより、視聴者に眼鏡などの補助道具を介さず立体映像を見せる「肉眼3Dビジョン」。デジタルサイネージの屋外設置が普及して久しいが、大型化・高解像度化・設置数増加のみならず、”表現”の追求により生まれた付加価値といえる。今回の特集では、各地の肉眼3Dビジョン媒体主に、設置経緯やこれまでの実績、そして今後の展望についてインタビューした内容を、全3回にわたって紹介する。
新宿サザンテラスビジョン│水槽にウーパールーパー
㈱小田急エージェンシーは4月から、「新宿サザンテラスビジョン」で肉眼3D映像を放映している。
同社は新宿サザンテラス広場に築約25年のサインボードを保有していたが、筐体劣化のため、アナログ看板からデジタルサイネージにリプレイスし、同ビジョンを設置した。
新宿サザンテラス広場は公開空地で、原則新しいメディアを設置できないため、既存の広告を生かした。元々の形が肉眼3D映像を放映しやすいL字型だったため、引き続き採用。サイズも工作物確認が不要な縦3.6×横19mをそのままにした。
キービジュアルキャラは「ウーパールーパー」。L字型と相性のいい〝水槽〟を想定し、コンテンツを変えられるような媒体にしたいと考えた際、他のビジョンのマスコットとかぶりにくい水生生物を選んだ。制作会社に素材があり、かつ「可愛くてノスタルジック」と社内でも好評だったため選定した。
「当社としては3Dでも2Dでも収益は変わらないが、価格を下げ、トライしてくれる企業が増えてほしい。今後はウーパールーパーとのコラボもぜひ検討していただきたい」。(OOHメディア事業部・佐藤創氏)
新宿駅南口に位置。商業施設やバスタ新宿利用者にもリーチできる
6月に「わんだふるぷりきゅあ!」が初の3D広告を出稿。新宿駅東口のクロス新宿ビジョンと併せて放映した。7月からはクロス新宿ビジョンとのセットプランも販売開始。今後「新宿東口の猫」とのコラボ企画もあるという。また、ファン団体などが「推し」のために出稿する応援広告メニューも用意している。
「今後は『渋谷に出稿できないから』ではなく、新宿を第一候補にしてもらえるよう、ブランディングしたい。新宿エリアでジャック感を形成するため、他のビジョンや交通広告を含めた『セットプラン』を考えている」。(同氏)
LEDコミュニティビジョン│中野坂上のフクロウ
長田広告㈱は、全国211カ所に保有する媒体「LEDコミュニティビジョン」で、肉眼3D映像を放映している。
このビジョン群は平面の媒体が多く、サイズにばらつきがある。このため、コンテンツは「どの媒体でも流せる汎用的なクリエイティブ」を心掛けている。L字型の肉眼3D映像は立体的に見える視認場所が限定されるが、平面の媒体は比較的広いエリアでどこから見ても飛び出ているように見える。この汎用性を訴求していきたい考えだ。
キャラクターは複数いるが、中でも2021年の黎明期に作った「中野坂上のフクロウ」は、中野坂上交差点角に設置した媒体で放映している。3Dコンテンツ制作は2Dと比較して、写真などひな形があれば2〜3倍、全くの新規であれば5〜6倍、時間も費用も掛かるというが、同社は実写素材を切り抜いて合成。専門家の制作でなくても見栄えがよくなり、かつ少ないコストでできる工夫をした。このノウハウは現在の映像作りにも生きている。
平面の媒体は比較的広いエリアに3D映像を見せられるのが特長
これまで3Dコンテンツに興味を示した主な広告主は、建築系や警備会社、システム開発、士業など、同社のメインクライアントである地域密着企業。
今後は①「安価で量産でき、汎用的かつインパクトのある3D広告プラン」の提案 ②「固有のキャッチコンテンツやイメージキャラクターを制作」して媒体自体の認知拡大およびブランディング―の2軸で進める。
「これからは新しい表現、高度なクリエイティブにも挑戦したい。年内には広島県福山市で2面の屋外ビジョンを設置する予定なので、早速新しいクリエイティブに挑戦できそうだ」。(制作開発部 クリエイティブ課 主査・多田慎一氏)
イオンモールビジョン│秋田の象徴なまはげ
「イオンモール秋田」のオープン30年のリニューアルを機に設置された『イオンモールビジョン』――。
ハードコンセプトは、「秋田に無くて当たり前を、秋田にあって当たり前に」を設定。県内初となるビジョンを2023年度に計画した。
「当時、国内で話題だった肉眼3Dを、国内のイオンモール内では最大級となるビジョンの設置を決めた。秋田の方々に新しい体験を迫力のある映像で提供するのが目的だ」(イオンモール秋田の担当者)。
イオンモール秋田のセントラルコートに設置されたビジョン
ビジョンは、施設1階のメインイベントスペ―ス「セントラルコート」に位置する。高さは約12㍍で1階のみならず、2階・3階からの視認性も良く、施設内の象徴的な場所に設置された。
メインビジュアルとなるキャラクターについては、秋田の方々のためのリニューアルである以上、〝秋田らしい〟ものを追求することで方向性を決定。その中で分かりやすく、愛着のある「秋田犬」と、秋田らしさの象徴でもある「なまはげ」を選定した。
「後付けになるが、現在秋田→台湾へのチャーター便が運航しており、モール内には台湾からの観光客が多数来ている。台湾からの観光客に秋田らしさの象徴を肉眼3Dで案内できるので非常に好評だ」(同)。
今後について、同社の担当者は、現在「秋田犬」と「なまはげ」の4パターンある肉眼3Dのコンテンツを充実。春夏秋冬で肉眼3Dを放映し、モール内で季節を感じてもらう展開を考えている。「大型ビジョンのため、動画のインパクトも大きい。アニメや映画、アーティストといった『コンテンツ系』ジャンルとの相性も良い。これらのジャンルをさらに拡大させ、ファンの方々が喜ぶ聖地にしていきたいと考えている」(同)。
大阪駅セントラルサウンドビジョン│ヒョウのアカツキがねぐらに
2020年8月、大阪駅〝暁の広場〟の上部壁面に設置された『大阪駅セントラルサウンドビジョン』。
このビジョンは、大阪駅構内では最大の約450インチ(H3×W11㍍)に加え、同駅では唯一、音声を使った広告放映が可能な大型媒体だ。
22年9月28日からは、同広場の上部をねぐらにする、ヒョウ「アカツキ」が、ウロウロと歩き回ったり、のんびりとお昼寝したり、時には大きなあくびをして歩行者を驚かす3D映像を不定期で放映している。
「3,2,1」のカウントダウン後に登場するヒョウの「アカツキ」
「ビジョンは、シンボリックな媒体にかかわらず、コロナ禍における交通広告の売り上げが厳しい時期に新設したため、媒体の認知が思うようにいかなかった。このため、当時、話題だった新宿東口の『3D猫』のような動画を、平面ビジョンでどこまで表現できるかを検証することで、媒体の価値を向上させるのが目的だった」(㈱JR西日本コミュニケーションズ 交通メディア統括局 販売企画局 駅デジタルメディア部・島知子氏)。
メインとなるキービジュアルキャラクターの選定では3Dらしくするため、犬や鳥など動くキャラを考え、動物の候補の中から、スタイルの良さ、俊敏なイメージ、大阪で人気のヒョウ柄などの理由から、最終的に「ヒョウ」を選んだという。
「オリジナルコンテンツのヒョウ〝アカツキ〟とのコラボを声掛けしたところ、テレビ局や近畿圏内でない地方自治体とのコラボが実現したほか、映画告知や、メーカーの商品PRとして3D映像が利用されている」(同)。
今後の展望について、同社の担当者は「交通広告媒体社として3D媒体にとらわれず、媒体価値向上につながる取り組みは引き続きチャレンジしていきたい」と話す。
なお、大阪駅以外ではハピラインふくい駅に北陸初となる大型柱巻きLEDビジョンによる「恐竜T‐REX」の3D映像を3月16日から放映している。
※本記事は『総合報道』2024年8月5日号に掲載されたものです