知る・学ぶ/コラムOOH広告枠のプログラマティック取引最前線インフラ整備が進む
電車広告駅広告
2024.06.18
交通広告・OOHに強みを持つメトロアドエージェンシーと、マーケティング・広告の専門メディア「AdverTimes.(アドタイ)」とのコラボレーションで、OOH領域の知見をより広く、深くお伝えしていく短期連載。 第1回は、Hivestack Japanの片岡裕紀氏が広告枠取引の進化について解説します。
進化する交通メディアの広告枠取引
コンピューターの技術革新は私たちに様々な恩恵をもたらしています。それはDOOH(Digital Out-Of-Home)における交通広告も例外ではありません。
近年の交通広告では、スマートデバイスやセンサーデータ、改札、その関連サービスなどのデータを活用した新たな取り組みが行われており、プログラマティックDOOH広告プラットフォーム(pDOOH広告プラットフォーム)はインプレッションと呼ばれるオーディエンスデータ(※1)の広告取引を交通広告にもたらしています。インターネット広告のバイヤーも交通媒体を購入できるなど、ロケーションだけではない「オーディエンスデータ」による広告取引が加わったことは大きな変化と云えるでしょう。
ネット広告の仕組みを導入 DSPから購入可能に
過去から現代まで多くのDOOHは、媒体社や運用会社によって番組表と呼ばれる予約された順番にコンテンツや広告の再生/表示が行われる仕組みで運用しており、広告クリエイティブの審査に加えてコンテンツ管理や配信設定、収益管理など複数のシステム運用と管理が負担になっています。また、広告会社も予約された広告枠の管理や広告キャンペーンの予算管理、計画と提案、広告クリエイティブの制作、その進捗や報告などの仕事に時間を費やしています。
これらは過去にインターネット広告が抱えていた課題と類似しており、媒体社はインベントリと広告ネットワークの拡大に伴い管理と運用コストの増加と広告売買が複雑化していく傾向にあり、広告会社も同様にメディアリレーションの増加とキャンペーンや広告予算の運用管理などが負担になっていく傾向にあります。
これらの課題を解決するためにプログラマティックDOOHが登場しました。このプログラマティックDOOHの広告テクノロジーはインターネット広告のOpenRTB と呼ばれる仕組みが利用されています。つまり、インターネット広告と同じような仕組みで広告取引ができます。
この仕組みを簡潔に述べると「リアルタイムにオークションを行い最高入札額の広告を配信するシステム(※2)」になりますが、その大雑把な手続きとして、(1)媒体社はSSPにスクリーンの最低落札額となるフロアCPMをセットする、(2)広告会社(バイヤー)はDSPから実行したいキャンペーンの広告クリエイティブと広告予算や最低入札額、期間、対象のオーディエンスとネットワークをセットする、(3)媒体社がSSPで広告クリエイティブを承認すればコンピューターが期間内に広告キャンペーンを達成してくれるというわけです。要するに媒体社がSSPでスクリーンを提供して、バイヤーはDSPから広告出稿することができます。これにより、媒体社は色々な広告主からの掲載を受けられる可能性が高まり、バイヤーは色々な媒体社に広告掲載できるというメリットがあります。
そして、この売買はインプレッション単位にオークション形式によって行われるということです。
今後、交通媒体社にSSPの導入が進んでいくことでバイヤーはDSPからインプレッションという共通単位で交通媒体を横断的に購入できるようになり、将来的にはメディアカテゴリ別に分断していた広告売買の統合も期待できるのかもしれません。スクリーンを予約枠として購入するのではなくスクリーンの視聴者をターゲティングすることによって媒体社とバイヤーの双方に透明性のある広告取引をもたらし、多様化していく購買プロセスに対応していくことができるようになっていくことが期待できます。
東京メトロのメディアは2020年9月中旬からプログラマティックDOOHによる「Metro Wall Vision」の提供を開始しており(※3)、いくつかのスクリーンをDSPから購入できるようになっています。同社は、以降もpDOOH広告プラットフォームで提供する媒体を増やしておりアーリーアダプタ―として交通広告取引の進化を先導しています。
現在、東京メトロのメディアをはじめ、いくつかの交通媒体は、提携先のDSPから購入できるようになっており、バイヤーがクリエイティブの入稿や広告キャンペーンの進捗確認、一時停止やレポートの出力など広告売買の管理と運用を行うことができます (※4) 。一例として、当社のパートナーはHivestack DSPから米大手コンピューター製造会社や欧州家具メーカーなどのキャンペーンを実施したことがあり、海外のブランドからもスムーズな広告配信ができるようになっています。
(参考)Hivestack DSPの配信画面(左がヒートマップ、右が時間単位の表示)
このように交通広告は、データとテクノロジーの融合によって確実に進化しています。私たち消費者が生活の中で進化を感じることはないかもしれませんが、駅や車両で目にする交通広告はデジタルサイネージシステムやネットワーク、データや広告テクノロジーなど多くの技術によって実現されています。これからは、電車内でスマホに表示される広告が降車駅で表示することができるような時代も訪れようとしているのかもしれません。この記事を通して、その進化の一片を知っていただく機会になれば嬉しく思います。
※1)インターネット広告が表示あたり1インプレッションに対してOOHのスクリーンには複数の視認者があるものとして計測、算出されます。日本では、一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアムがオーディエンスデータの標準化に取り組んでいます。
※2)取引形態やオークション形式によって異なり、またDOOHのシステム環境に依存して取引単位が異なる場合もあります。
※3)メトロアドエージェンシーのプレスリリース「メトロアドエージェンシー、OOHメディア・ソリューション、LIVE BOARDの3社、東京メトロ駅構内のデジタルサイネージメディア「Metro Wall Vision」において LIVE BOARDマーケットプレイスを活用したデジタルOOH広告配信の実証実験を開始」(2020年9月30日)より
※4)媒体社により運用が異なり、また、広告審査と承認手続きは必要です。