知る・学ぶ/コラムフィルムを模した表現で映画のような世界観を演出
駅広告
2024.05.10
2023年8月、「アスタリフト」の新CM「列車のふたりナノテクノロジー」篇が公開された。それに合わせて10月に渋谷駅で展開されていたのが横型の長いポスターと縦型のサイネージ。それぞれでCMの世界観を拡張するような表現がなされている。アートディレクターの浜辺明弘さんに話を聞いた。
「列車のふたり」の旅の始まり
富士フイルム「アスタリフト」のテレビCM「列車のふたりナノテクノロジー」篇に登場するのは、宮﨑あおい演じる女と、岡田将生演じるアスタリフトについて熱心に語る男。列車の中で出会った2人のふしぎな旅の始まりを、映画調で描いている。9月には「同赤の力」篇、「同リポソーム」篇も公開した。
企画の発端について、「富士フイルムのサイエンスに基づいてつくられているアスタリフトというブランドや製品の魅力を、今の女性に改めて伝えるべく始まりました」とWATCHのアートディレクター浜辺明弘さんは話す。コピーライター太田恵美さんの「あしたに、期待せよ。」というコピーを軸に、クリエイティブディレクター佐々木宏さんやCMプランナー福里真一さんらと共に、ひとりの女性の人生を列車の旅に重ねて描く、という企画を考えた。表現の面では、「映画のような上質な世界観だけど、話している内容はベタな商品訴求」というあえてギャップのある描き方をしてみようと話がまとまった。
そこで、いかに映画らしさを演出するかがポイントになる。映像監督の永井聡さんに映画らしい列車の描き方を相談すると、「ヨーロッパの映画に出てくる列車のような世界観があり得るのではないか」とアドバイスを受けた。「列車を舞台にした複数の映画を参考に、列車の旅が人生と重なって見えるような、華美な装飾が無い素朴な列車、というイメージが固まっていきました」(浜辺さん)。また列車以外にも、CMの始まりに画面いっぱいに赤い文字で「ASTALIFT」と入れることで映画のタイトルのように見せ、物語が始まる期待感を高めるなど、工夫を凝らしていった。
縦横の合わせ技で映画らしさを演出
そうしてできたテレビCMの世界観をベースに、渋谷駅地下通路に掲出された横長のポスターと縦型サイネージでは、どちらも媒体を映画のフィルムに見立てたクリエイティブが展開された。交通広告を掲出した理由を浜辺さんは、「佐々木宏さんとの仕事では、メインのテレビCMのほかに、SNSでの話題化のための施策も提案・実施することが多いです。今回はキャンペーンの特設Webサイトだけでなく、この交通広告を掲出することにしました」と説明する。
横長のポスターには「アスタリフト」を象徴する赤色の背景に、映画のフィルムのパーフォレーション(送り穴)を模した縁に入った15枚の写真が並ぶ。さらに映画感を高めるために、写真には字幕のようなフォントと位置でコピーを配した。
一方その近くに複数配置された縦型のサイネージでは、縦型のフィルムが徐々に上にスクロールされていき、テレビCMをなぞった物語が展開される。字幕スーパーでは、「飛び込んだコンパートメントにその男はいた。事情を察してか、親しげに話しかけてきたのだった。」「ぼくが思うに、」「肌は、その人が懸命に生きてきた証です」といった力強いコピーが。さながら、サイレント映画のような体裁だ。
それぞれの内容をどう考えたのだろうか。「フィルムを模したのは映画らしさを演出する意図でしたが、同時に富士フイルムの祖業を体現するものでもあります。横型ポスターは、フォトグラファーの高柳悟さんが映画のような雰囲気で撮影してくれた15枚の写真をフィルムのように並べたいというところから考え始めました。ただそのままだと天地に余白ができてしまうので、アスタリフトのブランドカラーである赤色を敷くことで、フィルムのように見せると同時に、CMの舞台でもある赤色の列車の車窓が並んでいるようにも見せようと考えました」。
縦型のサイネージでは、ポスターよりも字幕スーパーを多めに入れている。つい立ち止まってその先のストーリーを見入ってしまうようなつくりだ。さらに、横型ポスターと縦型サイネージを近い位置で展開することで、空間での体験性も高めている。
スマホもある意味OOH?
「多くの化粧品ブランドが女性タレントを起用してそのビジュアルを全面に出すコミュニケーションをしている中、それとは異なる映画調のトーンで、『あした』を見据えた物語をつくっていきたい、と考えて生まれた施策。
交通広告は、それをより体感できる場になったのでは」と浜辺さん。交通広告と共に制作したスマートフォン用の特設サイトでも、同じようにフィルムのようなデザインを採用。「スマートフォンの普及により、人々が交通広告を見なくなったと言われています。電車内でもスマホに夢中で、中づり広告などもあまり見られなくなっている気も。だからこそ、出先で人が移動をしながら見続けているスマートフォンの画面も個人個人のOOHメディアである、と言えるかもしれません」(浜辺さん)。
また今回から、ドラッグストアの店頭でも、横型のポスターのようなフィルムのあしらいを加えたPOPを展開。CMから人の移動中、店頭まで、一気通貫してブランドイメージの刷新を図っていく考えだ。
※本記事は月刊『ブレーン』2024年3月号に掲載されたものです。