知る・学ぶ/コラム交通広告の価値を産学連携で検証【第2弾】~地下鉄では「未来志向型」広告が効果的

2024.11.05

「膜構造のリーディングカンパニー」として国内外のスタジアムやパビリオンを手掛ける太陽工業㈱(本社東京・大阪、能村祐己社長)と㈱メトロアドエージェンシー(メトロアド、本社東京、川田博之社長)および(学)東京国際大学(東国大、倉田信靖理事長・総長)は、「交通広告の価値」を産学共同で研究。第2弾は地下走行の車両メディアで効果的なクリエイティブを検証し、結果を7月に発表した。これによると、地下鉄で展開する広告は未来的な要素があるクリエイティブが効果的であることが明らかになった。

地下空間はより刺激物に注意が向く

東国大の平木ゼミは2022年11月(学生28人)と23年6月(学生119人)の計2回、地下にいるときの感覚が刺激に及ぼす影響について調査を行った。ブラインドを開けた部屋を地上、閉めた部屋を地下と想定し、調査した結果、地下 暗い環境では地上 明るい環境よりも不安感情が高まり、スマートフォンなどの「強い刺激物へ注意が向く」ことが導き出された。
平木いくみ教授によると「地下鉄(メトロ)という媒体を生かした広告案を考えるにあたり、空間の暗さといった地下鉄特有の感覚に注目した。センサリーマーケティング(※)研究を調べると、暗さの感覚は不安や憂鬱な感情と結びつくため、人は無意識に光を求める傾向になることが明らかにされていた。『暗さ→光を求める』という単純な関係を地下鉄での広告にあてはめ、暗く不安になりやすい環境で求められる広告には、光を感じさせるものがよいというシンプルな仮説につながった。実際の広告では光と親和性が高いクリエイティブとして、企業の未来志向やグローバル志向といった側面のアピールを提案した」という。

※消費者の感覚に強く影響を与え、彼らの知覚、判断、行動に影響を与えるマーケティング

夜≒地下で未来志向型広告の評価UP

 24年2月〜3月、次の100年に向け、グループ経営の強化を図っていることをステークホルダーへ周知する「未来要素」がある動画広告が、東京メトロ全9路線の車両内デジタルサイネージ(Tokyo Metro Vision )に掲出された。この広告は、広告主である太陽工業のクリエイティブテスト(仮説に沿う未来志向のクリエイティブになっているか)を経た上で、媒体社としてメトロアドが協力し、実現したものである。サイネージ広告の効果検証は、3月8日と3月11日の2回にわたるインターネット調査により行われた。その際、前者は夜に調査を行うことで地下条件、後者は昼に調査を行うことで地上条件と想定した(調査サンプル各145人、計290人)。分析の結果、地下条件で見る場合の方が、地上条件で見る場合よりも、同広告への注意や評価が高くなった。

単なる色味や形だけでの刺激はNG

 未来志向の広告提案に至るまでには、刺激を強くする要素として、広告の色味や形などでもプリテストを行っている。しかし、地下を再現した暗い条件では、単なる色味や形で刺激を強くするだけでは、地上条件の評価との間に違いは見られなかった。一方、「海外」や「未来」の内容については、国内(事業・展開)よりは海外(事業・展開)をアピールした方が、企業の過去(実績や歴史)よりは未来(目標や展望)をアピールした方が、広告評価は高くなり、地下鉄で展開する広告として、光を知覚させるクリエイティブの有効性が示された。最終的に、地下条件で最も高評価を得た「未来」志向の内容が選択された。

研究結果を営業トークに取り入れる

今回の検証で、無意識に不安感情が高まる地下空間で、人は刺激を求めること、その刺激は光の概念を連想させるクリエイティブが有効であることが分かった。ただし、訴求ポイントやクリエイティブ表現など特定のシチュエーションでの調査であり、全ての広告主・車内サイネージ全体に応用が利くものではない。
メトロアドは、衣料品チェーンストアの新規店舗出店のプロモーション案件で、駅貼りの出稿に関し、同産学共同研究第1弾(※)の結果をフックに提案。結果、階段ではなく別の場所への出稿になったが、クライアントからは評価され、営業トークの一つとして出稿のきっかけになった。
同社は調査結果そのものの汎用性は低くても、重要なのは今回ゼミ生が示した「移動シーンの心理状況をくんだ広告」という着眼点だという。今後も代理店として「移動シーンや心理状況に着目した広告表現や提案」を促進し、生活者とメディアの接触シーンを切り取った検証を積み上げノウハウを深め、メニューやデータのアップデートをしていくことが重要だとしている。

※駅階段を上ってきた/下りてきた人に訴求する広告は、それぞれ適したクリエイティブがあることを検証【本紙2月15日号参照】

各社担当者は今回の調査結果を受けて、次のように語る。

太陽工業 執行役員 ブランド戦略推進本部長 統合マーケティング室長・八木祥和氏
「スポンサーとして参加したが、学生の発想、解釈が目からうろこで面白く、OOHの使用方法を改めて考えさせられた。交通広告を含めたメディアミックスで、ターゲットがいろいろなメディアに接触する際、どんな感覚でいる時にどんなインプットをするか検討することが大事だと分かった。これからも工夫して伝えたいメッセージを効果的に訴求したい」

メトロアド 営業本部 統合メディア局 統合メディア部・山田凜子氏
「約2年間の取り組みで、新たな『交通広告の価値』を作り出していくのが当社の仕事だと感じた。この産学連携で学んだ知見・ゼミ生の着眼点を生かし、交通広告・メトロメディアの新たな価値(新しいメニューや、データ)を作り出していきたい。また、今回の研究を通して、学生たちが少しでも広告に興味を持つきっかけになったのであればいいなと思う」

東国大商学部・平木いくみ教授
「利益を追求する企業への提案という機会を得た学生たちは、教科書での座学ではできない、貴重な学びを経験した。就活でも大きな自信につながったと言っている。企業の理解と温かい支援に深く感謝している」

 

※本記事は『総合報道』2024年10月5日号に掲載されたものです