知る・学ぶ/コラム生活に溶け込むOOH広告:シェアフルのオムニチャネル戦略

駅広告

2024.12.09

スキマバイトアプリ『シェアフル』を展開するシェアフル株式会社が、2024年8月より東京メトロ全線でのツインステッカーや東名阪エリアの駅看板をはじめとした、大規模なOOH展開を開始しました。 今回、同社のOOH活用について、マーケティング本部に詳しくお話を伺いました。

認知度の更なる向上へ

 シェアフルは、スキマ時間を活用して働きたい人と人材を必要とする企業をマッチングする求人情報アプリです。同社はこれまで主にデジタル広告を中心としたマーケティング施策を展開してきましたが、2023年の調査では業界最大手の競合との認知度に大きな差があることが判明。シェアフルは2,3割程度に留まっていました。
 同社マーケティング本部CMO浜野氏によると、利用率やアクティブユーザー数など、実際のサービス内容に関する指標では競合との差が小さいにも関わらず、サービスそのものの認知度に大きな開きがあることが、事業成長における重要な課題だと認識したそうです。

オムニチャネル化への取り組み

 認知度向上を図るため、2023年にテレビCMを開始しましたが、単独のメディアでは十分な効果が得られなかったため、2024年8月からオムニチャネル戦略を本格化しました。シェアフルが展開する統合メディア戦略は次のとおりです:

①テレビCM
ブランド認知の基盤として、全国放送でのテレビCMを実施。時間帯や番組との親和性を考慮した出稿を行っています。
②電車内広告(東京メトロ全線ツインステッカー)
通勤・通学時間帯に接触機会の多い電車内広告を活用。特に若年層の利用が多い東京メトロ全線でツインステッカーを展開し、日常的な接触を図っています。
③駅看板広告(首都圏、大阪、名古屋)
戦略的に選定した駅での看板広告を実施。特に大学生などの若年層の利用が多い駅を重点的に選定し、ターゲット層との接点を強化しています。
④店舗でのポスター・ステッカー掲出
ユーザーが実際に働く場所でもある店舗でも広告を展開。コンビニエンスストアや飲食店など、日常的に利用する場所での認知接点を創出しています。
⑤SNS広告
若年層の利用が多いSNSプラットフォームでの広告展開。他メディアとの連動性を意識した訴求を行っています。
⑥YouTube広告
動画コンテンツとの親和性が高いプラットフォームでの展開。テレビCMと連動したコンテンツを配信し、相乗効果を狙っています。

東京メトロ全線ツインステッカー

 通学・通勤時に電車内で広告に接し、SNSを見れば我々の広告が流れ、街中を歩けば交通広告が目に入る。さらに、コンビニや飲食店などでもポスターやステッカーを目にする。このように、生活者の日常生活の中で自然にシェアフルと接する機会を創出することを目指しているといいます。

OOHのメディアプランニングで意識するポイント

電車内広告と駅看板の戦略的な展開

 駅看板では、利用者数だけでなく、周辺大学の数や学生の利用導線も考慮し、若年層へのリーチを強化しています。看板の位置も、同じホームから乗車する利用者が毎日自然に目にする場所を選ぶことで、反復接触を狙っています

駅看板広告

独自の店舗展開

 店舗での広告展開については、以下の3つの異なるアプローチを組み合わせることで、より広範な露出を実現しています。

①リテールメディアとしての正規出稿
店舗内の広告スペースに正規の広告として出稿。例えば串カツ田中の店舗スタッフのユニフォームへのロゴ掲出など、具体的なバイトシーンとも相性のよいリテールメディアを積極的に活用しているそうです。
②求人掲載店舗との協力による掲出
シェアフルに求人を掲載している店舗との関係性を活かし、ポスターやステッカーの掲出を実施。実際の採用現場での認知向上も同時に図っています。
③社内インナーキャンペーンによる自主的な掲出活動
シェアフル社員による草の根的な活動として、日常的に利用する飲食店などへの掲出交渉を展開。約300店舗に無償でご協力いただき、よりオーガニックな形での露出を実現しています。このような取り組みは、広告としての露出効果だけでなく、地域のお店との関係構築にも役立っているそうです。

柔軟性を活かしたタレント起用とクリエイティブの最適化

 今回のキャンペーンでは、ロバート秋山さんと井桁弘恵さんを起用しました。これは前回のキャンペーンでの経験を活かした戦略的な選定となっています。

 浜野氏によると、前回のキャンペーンでは、知名度の高いタレントを起用したものの、契約の制約により店舗展開などでの利用に制限がありました。この経験を踏まえ、今回は各種媒体での展開の自由度が高いタレントを選定。特に店舗展開やSNSでの二次利用なども含めた、より柔軟な展開を実現しているといいます。
 またOOHのクリエイティブでは、テレビCMとの連動性を重視した展開を行っています。具体的には以下のような要素を統一的に採用しています。

① 青い空を基調とした爽やかな背景
② キャラクターを散りばめた親しみやすい街並みの表現
③ シェアフルのアプリアイコンとスマートフォンの効果的な配置
④ 統一されたカラーによる視認性の確保

OOHクリエイティブ

 同社マーケティング本部・クリエイティブディレクターの大渕氏によると、特にOOH広告では、シェアフルがアプリサービスであることを即座に理解してもらえるよう、スマートフォンとアプリアイコンの配置を工夫したそうです。また、駅や電車内という環境でも視認性の高い、明るく目を引くカラーリングを採用したといいます。

新たなOOH体験を創出する取り組み

 最近ではOOHの領域の中でも、革新的な取り組みにも着手しています。その一例が、新宿の東宝ビルのエスカレーター手すりへの広告掲出です。この取り組みでは、単なる視覚的な広告掲出にとどまらず、NFCチップを活用した実証実験にも参加しています。
 将来的には、エスカレーターに乗っている際にスマートフォンをかざすだけでインタラクティブなコンテンツが楽しめるような、新しいOOH体験の創出を目指しています。これは、従来の一方向的な広告コミュニケーションから、双方向のエンゲージメントを生み出す可能性を秘めた取り組みだと考えているそうです。

エスカレーターを活用した広告

 施策開始後、様々な形での効果が確認されています。特に注目すべき点として、SNSでの自発的な投稿や写真共有が増加していることが挙げられます。タレントを起用した広告クリエイティブへの反応や、街中で見かけた広告の投稿など、オーガニックな拡散も見られています。
 定量的な効果としては、毎月実施している定点調査において、「シェアフルを知ったきっかけ」としてOOH広告を挙げる割合が顕著に増加。デジタル広告との認知経路の差が35ポイントから20ポイントまで縮小するなど、具体的な効果が確認されたそうです。

シェアフルの考えるOOHの課題と可能性

今回のOOHメディアの活用を通じて、同社ではOOHを以下のようなメディアと捉えているといいます。

課題:効果測定やトラッキングの難しさ

 従来型のOOH広告では、接触者数の正確な把握や、実際の行動変容との因果関係の測定が困難という課題を挙げています。また、デジタル広告のような詳細なトラッキングが難しく、きめ細かなPDCAサイクルの実施の困難さも感じられるそうです。

可能性:インタラクティブなコミュニケーションを生み出す仕掛け

 最近注力しているNFCやQRコードなどの「デジタル技術の活用」により、従来の一方向的な広告から、ユーザーとの対話的なコミュニケーションが可能な広告への進化に期待を寄せています。スマートフォンと連携したAR(拡張現実)体験や、リアルタイムでの情報更新など、デジタルテクノロジーを活用した新しい広告体験は今後のOOHの進化の形としては十分に期待できるのではないでしょうか。
 また、「クリエイティブによるバズの創出」も、OOHの大きな強みと考えているそうです。SNSとの親和性を意識した仕掛けづくりや、参加型のキャンペーンなど、話題化を促進する要素を組み込んだ展開はまだまだ開拓の余地があります。

 最後に浜野氏はOOHに対して以下の感想を述べました。
「OOHはデジタル広告と比べて強制的な広告接触が少なく、自然な形でブランドイメージを構築できる点が強みです。特に、電車内や駅構内など、ユーザーが静かに情報を受け取れる環境では、より深い印象を残せる可能性があります。今後はデジタル技術との融合により、さらなる可能性が広がっていくと考えています。」

同社では、上記で紹介したOOH以外にもシェアサイクルなど新たなメディア開拓にも積極的に取り組んでいる。

まとめ

 今回のシェアフルの事例は、従来型のOOH活用に加え、新しいテクノロジーや手法を取り入れた革新的な取り組みとして、業界内外から注目を集めています。今後、さらなる技術革新や創意工夫により、OOH広告の新たな可能性が開拓されていくことが期待されます。

このコラムの著者

リテール&メディア事業開発 メディアプロデューサー unerry 平井健一郎

ひらい・けんいちろう/2023年6月unerry入社。広告代理店でOOH(交通広告・屋外広告)の企画営業や新規事業開発などを経験後、JR東日本グループにて鉄道関連事業やOOHビジネスのDX推進に従事。unerryではメディア領域の事業開発を担当。自身の運営する「Oh!OOH!!」やマーケティング専門誌「販促会議」にて街ナカメディアの活用事例を発信中。

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