事例コラム 「看板で人生が変わった」──きぬた歯科が語る、中小企業のための広告戦略

2025.07.02

黄色い地に男性の顔が浮かび上がるデザイン。高速道路や国道を走っているとひときわ存在感を放つ看板がある。広告主は、東京都八王子市の「きぬた歯科」だ。医院の最寄り駅である西八王子駅南口は、さながら同歯科によってジャックされている。このインパクトから、これまで多岐に渡るテレビやWEBメディア等で紹介されてきた。  今回は、「看板で人生が変わった」と語るきぬた泰和理事長にインタビュー。6年前から看板掲出に注力し、今では340カ所(2019年11月現在)、医院の売上も当時から1.5倍に伸びたという。看板に対する想い、広告ツールとしての魅力など、話を聞いた。

看板を設置したことで来院数、宣伝コストに影響はあったか

きぬた「インターネット広告と看板を比較すると集客数は同じ、コストはネットが約27倍という結果だった。看板に注力する契機となったのは6年前。他の歯科医院でインプラントの施術中に死亡事故が発生し、テレビで施術に対しバッシングがあり、患者数が激減したこと。この機会にどの広告を見て患者が来院しているかを調査した。それまでネット広告に月100万円、年間1200万円使っていたが、ネットを止め、代わりに看板2カ所、年間45万円に変更。結果、来院者数は一緒だった」。

中小企業の効果的な看板掲出の戦略は

きぬた「1~2基の設置では効果が薄い。初期投資がかかっても、5~6基置くべき。看板は24時間強制視認されるツール。ネットは自ら情報に向かっていく人にしか認識されない。世の中には、歯医者、ラーメンなどについてずっと顕在的に意識し続けている人はそういない。人の潜在的な想いを喚起させるのが看板だ」。

きぬた「看板を置く場所、ペースなどは戦略的に展開。設置は、当院を中心に半径500m、続いて1kmの国道のメインストリートに掲出していった。ペースに関しては、看板を最初の2基から毎週1カ所ずつ置く速度で増やし、現在は340カ所。理由は同業者が追い付けないようにするためだ。例えば、他の医院が1基設置している国道には、当院は既に6カ所置いている。今では様々な歯医者が看板を置いているが、『きぬた歯科みたい』と言われるようになった。しかし、他の医院に関しても、ターゲットエリアで看板を展開することは効果的なので、決して無駄にはならないはず」。

設置場所の選び方は?

きぬた「広告主募集のところに置くことは少ない。高速道路看板は決まった場所だが、野立ては渋滞する交差点の民家の庭など、自分が置きたいところに交渉。看板を置かれた側も、設置料が入りWinWinの関係になる。また、目立つ場所のほかに、意外性がある所に置くという戦略がある。例えば国立市の甲州街道の、谷保天満宮をまっすぐ行って突き当たりの鉄くず店の敷地に、小さな看板を設置。これが目を惹き、国立市からの患者が増えた」。

看板で自分の人生も変わったとのこと

きぬた「看板からスタートしたが、今では目にした人にSNSで発信されるなどネット上にも広がっている。コミックマーケットできぬた歯科の看板のコスプレをしている人もいた。看板を色々な人にリアルタイムで発信してもらえているのを感じている」。

きぬた「また、自身の人生も充実したと思う。以前は人生の一番輝いていた時を振り返ると、中学生の時、剣道の市の大会において個人戦で優勝した時だった。『このまま人生がなんとなく終わるだろうな』と考えていたが、看板に取り組んでからここ3~4年は今が一番輝いていると思えるようになった。取材が舞い込み、売上もアップ。この気持ちを継続して、今後も看板の応用、工夫をしながら楽しみたい」。

 

※本記事は『総合報道』2020年2月5日号に掲載されたものです

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