事例コラム 【交通広告をつくる人 #03】OOHクリエイティブで話題を生む企画術|“本気の手間”をロジックに変える

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2026.04.06

デジタル広告のターゲティング技術が精緻化され、効率的な情報伝達が可能になる一方で、街という公共空間に突如現れるOOH(交通広告・屋外広告)の存在価値が改めて注目されています。 誰もが見過ごしてしまうような「ない(=取るに足らない、つまらない)」ものをきっかけに企画を考え、数々の話題作を仕掛ける、ない株式会社の岡シャニカマ氏。 「悪ふざけに見える企画ほど、強固なロジックが必要」と語る岡氏に、人を動かす企画の極意と、公共空間におけるOOHならではのクリエイティブの在り方についてお話を伺いました。

アイデアの「復路」思考と、逆算のロジック

――クライアントワークにおいて、数々のユニークな企画を打ち出されていますが、岡様はどのように企画を着想し、形にされているのですか?

アイデアの出し方には「往路」と「復路」の2パターンがあると思っています。 一般的に、課題などの「抽象」的なお題からスタートして、解決策となる「具体」的なアイデアを考えるのが「往路」だとすれば、最近の私は圧倒的にその逆、「復路」で考えることが多いです。

オリエンを受けた直後に思いつくのは、「こんなことしたら面白いのに」という、ある種の悪ふざけのような具体的なアイデアなんです。でも、当然ながら悪ふざけだけでは企業の稟議は通りません。 だからこそ、「こんなことをしたら面白い」という具体的なアイデア(アウトプット)を起点にし、そこから「なぜ今、この企業がそれをやるべきなのか」という理由(抽象的な課題や文脈)へと、思考を遡らせて逆算的なロジックを組み立てるんです。

例えば、自社商品として開発した「いけずステッカー」。これは、京都特有の遠回しな言い回し(いけず)をステッカーにしたもので、表には「うちのトイレ座り心地が悪くてすみません(=座ってもらう前提で詫びる)」のような建前、裏には「立ってすんなよ?」のような本音が書いてあります。 一見ただのジョークグッズですが、企画書上では「京都の『いけず』という文化は、言いにくいことを円滑に伝える高度なコミュニケーションスキルである。これを観光資源化し、ツールとして再定義する」といった大義名分を掲げています。

「裏がある京都人のいけずステッカー」。その名の通り表と裏の両面構造になっており、表には丁寧だけど、どこか意地悪で「いけず」な建前が描かれ、裏面を覗くと隠れていた京都人の本音を知ることができるというもの。

やりたいことが一見突飛なアイデアであっても、そこに社会的な文脈や企業の課題解決という理屈が綺麗にハマったとき、企画には単なる「1枚絵」では完結しない奥行きが生まれます。見た瞬間の面白さだけでなく、背景を知ってさらに「なるほど!」と思える深さ。この二段構えの面白さを意識しています。

OOHの価値は「事件性」と「オタクへの本気度」にある

――デジタル広告が主流となる中で、OOH(交通広告・屋外広告)ならではの価値や表現のポイントについて、どのようにお考えでしょうか?

 デジタル広告とOOHの最大の違いは、受け手の能動性にあります。 OOHは街の中で生活者が自分で見つけるものです。それは「こんな変なものが街なかにある!」「私だけが見つけてしまった!」という発見の驚きです。私はOOHには、この“見つけてしまった”という目撃者感があると思っています。

 これをあえて「事件性」と呼んでいて、この感覚こそがSNSで「言わずにはいられない」という衝動を生み、拡散につながります。また、もう一つのOOHの魅力は、企業の本気度が伝わりやすい点です。高いコストと手間をかけて、街なかで遊び心のある表現までやりきる。その姿勢自体が、受け手には「この企業は本気だ」という熱量として伝わります。

――その「事件性」や「本気度」を体現された具体的な事例があれば教えてください。

 レノボ・ジャパン様のゲーミングPC「LEGION」の交通広告(2022年9月に実施)が良い例かと思います。課題は、既にPCゲームを楽しんでいる層への認知拡大でした。そこで、「ゲームをやらない人には全く意味が分からないが、ゲーマーなら痛いほど分かる」という表現に振り切りました。 「モンスターハンターライズ:サンブレイク」の事例では、PCスペックの高さを「激昂したラージャン」というモンスター名だけで表現しました。未プレイの人には「ラージャンって何?」で終わりますが、プレイヤーなら「あの激昂ラージャンか! それはヤバい!」と瞬時に理解できる。

 あえて“分かる人にだけ分かる”表現に振り切ることで、ターゲット層には「これは自分たちのための広告だ!」「わかってるね!」という特別感や仲間意識が芽生えます。

2022年9月に実施されたレノボのハイスペックなゲーミングPC「LEGION」の広告掲出例。不特定多数の人が利用する電車内や駅構内に、あえてコアなゲームファンにしかわからないメッセージを掲載し、事件性を演出した。特に渋谷駅(3枚目)のポスターを目撃したユーザーの「撮らずにはいられなかった」という投稿をきっかけに、本施策が連鎖的に拡散する結果となった。

――ターゲットを絞り込む際、クリエイティブで意識されていることはありますか?

 絶対に知ったかぶりをしないことです。オタクやマニアの方々は、作り手が本当にわかっているかを敏感に察知します。生半可な知識で作ると、かえって信頼を損ねてしまいます。

 例えば、アデコ様とサンリオキャラクターのコラボ広告の際は、私自身はそこまで詳しくなかったので、サンリオに詳しいメンバーに協力してもらい、徹底的に教えてもらいました。。 「クロミの性格はこうだから、派遣先ではこういう強みがあるはず」といったファンの解像度まで理解を深める。 そこまでやって初めて、「サンリオキャラの就職活動にここまで本気になる必要があるのか?」と思うほどの、振り切った熱量が生まれ、アデコ様の「人に寄り添う姿勢」が、広告表現からも伝わり、信頼感につながったのだと思います。

 この「ターゲットの解像度を極限まで高める」という姿勢は、一見突飛に見える企画でこそ重要になります。例えば、ホラー作家・梨氏が原案・監修を務め、株式会社闇が企画したドラマプロジェクト「マルクト」のプロモーションでは、ドラマの世界観に合わせて制作した、「量産型大学生は地下帝国から送り込まれたクローンである」という怪文書的なポスター広告をあえてドン・キホーテの店内トイレという、独特な空間に掲出しました。
 
 このポスター、一見すると荒唐無稽な設定に見えます。しかし、ここに書かれている大学生のファッションや行動パターンの描写は、恐ろしいほどリアルです。特に10種類の「量産型大学生」は都内の大学に通う現役大学生の協力のもと、キャンパスでの現地調査を行って検討。手書きの文言も含めて大学生へのアンケート調査も行い、なるべく現実に忠実な内容にしました。

「マルクト」のプロモーションとして、「量産型大学生はクローン」という陰謀論めいた警告をするトイレ広告を実施。「マルクト」は、地上波番組《マルクト情報テレビ》(MBS/毎日放送)と連動するショートドラマ《マルクト 〜あなた、誰ですか?〜》(BUMP)として展開される超監視社会によってもたらされる構造や社会そのものへの恐怖を描いたSFドラマ。

アナログな「不便さ」こそが、これからの武器になる

――最後に、今後のOOHの可能性や、交通メディアを使って実現してみたい企画などはありますか?

AIの進化により、デジタル上では誰でも簡単にハイクオリティなコンテンツが生成できる時代になりました。供給過多になるデジタルに対し、物理的な「枠」に限りがあり、手間もかかるOOHのアナログな価値は、相対的に上がっていくはずです。
特に都市部の地下鉄メディアには、新宿のプロムナードのような長大な空間や、ユニークな展開を許容してくれる土壌があり、クリエイターとしては非常に魅力的です。

今後は、まだ広告メディアとして活用されていない交通空間にも挑戦してみたいです。例えば、地下区間の“暗闇”を逆手に取り、走行中の窓をスクリーンのように見せる演出ができないか、といった発想です。「何もない」と思われている空間や、「広告枠ではない」と思われている場所こそ、アイデア次第で強烈な違和感を生むメディアに変わる可能性を秘めていると思います。

「わかる人だけがわかる事件」の目撃者の承認欲求を刺激せよ

岡氏のお話から見えてきたのは、SNSで話題化する現象の裏側にある明確なメカニズムです。多くの人が行き交う公共空間において、あえて特定の人にしか伝わらない暗号のようなメッセージを放つ。それは一見、非効率に見えるかもしれません。しかし、その意味を解読できた人にとっては、単なる広告ではなく「自分だけが発見した事件」へと変わります。

「みんなは気づいていないけれど、私にはわかる」。その興奮は、SNSへの投稿というアクションを誘発します。この時、発見者は多くを語りません。前述のように「撮らずにはいられなかった」といった一言と共に画像をアップするだけです。特に印象的だったのは、この一見不親切な「ファンだけがわかっている感」こそが、拡散の起爆剤になるという視点です。言葉足らずである意味で不完全な投稿を見た人が「これってどういうこと?」と興味を持って調べたり、別のファンが解説を加えたりする。そうして文脈が共有されることで、連鎖的な拡散が生まれていきます。

また、そうした熱狂を生むための前提として欠かせないのが、コアなファンやマニアに対する「嘘のない姿勢」です。
ファンほど作り手の熱量を敏感に察知するものです。だからこそ、付け焼刃の知識でお茶を濁すのではなく、その道の有識者に直接インタビューし、時にはファンさえも驚くような一次情報を見つけ出す。徹底的にリサーチを行い、奥行きのあるクリエイティブを作り上げる岡氏の愚直なまでの探求心こそが、ターゲットの心を動かす原動力となっています。

「みっともない」「つまらない」など、世の中のネガティブな「ない」を「面白い」に変える企画を得意とするない株式会社岡氏による「本気で無駄な努力」によって仕掛けられた違和感は、見る人の心をざわつかせ、リアルな現場からデジタル空間へと熱量を伝播させていきます。このアナログで泥臭い想いを手間暇かけて裏側に仕込むことこそが、デジタル時代におけるOOHならではのクリエイティブの真髄といえるのではないでしょうか。

このコラムの著者

株式会社unerry メディアサービス Manager/Oh! OOH!! 管理人 平井健一郎

広告代理店で交通広告の企画営業や新規事業開発、パブリックアートの普及振興を経験後、JR東日本グループにてOOHビジネスのDX推進に従事。2023年6月より現職にてリアル行動データを活かした街のメディア開発に携わる。交通広告グランプリ、Metro Ad Creative Awardなど受賞。「Oh! OOH!!」 では、街ナカで見かけた広告の事例を発信中。

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