事例コラム OOH Tokyo Conference 2025レポート(後編) ― 日本独自のOOHの強みと未来展望 ―
電車広告駅広告
2025.04.14
2025年2月20日に開催された「OOH Tokyo Conference 2025 In Association with WOO」は、日本初となる国際OOHカンファレンスとして、世界中の業界関係者が東京ミッドタウン・ホールに集結しました。
本記事は、その模様を2回にわたってお届けするレポートの後編です。前編では、メジャメント標準化の動向や国内外の注目クリエイティブ、プログラマティックOOHの進化を取り上げました(前編はこちら)。
後編となる今回は、日本独自の強みである鉄道広告・タクシー広告の特性や、OOHの未来を拓くサステナビリティ、AI活用、そして“セレンディピティメディア”としての可能性について掘り下げていきます。

日本独自のOOHメディアの強み
日本のOOH市場には世界に誇るべき強みがあります。「グローバル視点で探る日本のレールメディア」と「日本独自の発展を遂げるタクシー広告の進化と未来について」の2つのセッションでは、その独自性が詳しく紹介されました。
鉄道広告の優位性
世界の駅利用ランキング上位20駅中17駅が日本にあるという驚きのデータが示すように、日本の鉄道広告は世界的に見ても特異な発展を遂げています。OOH市場の約3分の1を占める重要メディアであり、「公共性の高さ」「嫌われない広告」「エリアごとの特性」などの強みを持っています。
東京メトロの銀座駅・表参道駅では、ラグジュアリーブランドの出稿が約6割を占めており、カルティエによる表参道駅での7.5mクリスマスツリー展示などの大胆な展開も実施されています。
JR東日本グループは「Beyond Stations 構想」を掲げ、交通の拠点としてだけでなく「暮らしのプラットフォーム」への転換を目指しています。新宿BBB(スリービー)、上野広小路口ビジョン、AKIBA“CAP”(アキバキャップ)など、インパクトのあるデジタルサイネージを次々と展開しています。



「グローバル視点で探る日本のレールメディア」より
タクシー広告の独自進化
タクシー広告では、東京のタクシーの96%にタブレットが設置されているという事実が紹介されました。これに対しニューヨークでは設置率30%程度、他の国ではほとんど設置されていないという点で、日本独自の進化を遂げていると言えます。
急速な発展の背景には、タクシー業界のDX化と決済の多様化、タクシーが必ず営業所に戻るという管理体制、日本特有の機器の安全性の高さなどがあります。特にビジネス利用が多く(月11回以上利用する方が3割超)、高所得層へのリーチが強みとなっています。
Not A Hotel(区分所有サービス)の事例では、富裕層や経営者へのリーチを目的に出稿し、検索数が倍増、サイト流入も増加、実際の物件販売にも直接的効果をもたらしました。



「日本独自の発展を遂げるタクシー広告の進化と未来について」より
OOHの未来展望:サステナビリティからAI活用、セレンディピティまで
サステナビリティとOOH
「Sustainability in OOH」セッションでは、ドイツのKai-Marcus Thäsler氏が「グリーンGRP」の概念を紹介。異なるメディアチャネル間のCO2消費量を比較した結果、新聞が最もCO2を消費し、次いでテレビ、オンラインと続き、屋外広告は最もCO2消費が少ないメディアだという結果が示されました。
屋外広告の割合が大きいキャンペーンを行えば、キャンペーン全体がより環境に優しくなるという指摘は、今後のメディアミックスを考える上で重要な視点です。

OOHは最も環境負荷の少ないメディアであると強調(「Sustainability in OOH」より)
AIと考える広告の未来
「デジタルスクリーンの変革:OOH業界におけるAIによる持続可能なソリューション」セッションでは、AIによるLEDディスプレイの電力消費最適化(アクティブスクリーン時12%、スタンバイモード45%削減)や、AIアーティストとのコラボレーション事例が紹介されました。

AIアーティストによるクリエイティブ(「デジタルスクリーンの変革:OOH業界におけるAIによる持続可能なソリューション」より)
「Futuristic Japan OOH」セッションでは、MRグラス(Mixed Reality)の普及による街中の情報レイヤー化や、AIとの連携による「考えて動く」広告の可能性が示されました。例えば2013年にカンヌでグランプリを獲得したIBMのスマートシティ広告(雨の日に屋根になったり、ベンチになったりするOOH広告)を現代のテクノロジーでアップデートすると、AIによって周囲の状況を判断して動作を変える広告が実現可能になるというビジョンが共有されました。


過去のカンヌ受賞作を再解釈し、現在のテクノロジーでアップデートした事例(「Futuristic Japan OOH」より)
セレンディピティメディアとしてのOOH
「日本の広告主が期待するOOHメジャメント」セッションで、サントリーホールディングスの金谷理沙氏は「OOHの一番の魅力は『セレンディピティメディア』である」と強調しました。
現代では、デジタルメディアのアルゴリズムによって個人の興味関心に合わせた情報だけが提供され、新たな発見や偶然の出会いが減少しています。そんな中でOOHは、意図せずに目に入ってくる情報との「出会い」を創出する貴重なメディアとなっています。
この価値はデジタル時代だからこそ、むしろ高まっているといえるでしょう。「デジタルが主流になりターゲティングが進むほど、偶然の出会いを起こせるOOHメディアの重要性は増している」という金谷氏の言葉は、OOHの未来を考える上で重要な示唆を含んでいます。



「OOHの一番の魅力は『セレンディピティメディア』である」と強調(「日本の広告主が期待するOOHメジャメント」より)
まとめ
OOH Tokyo Conference 2025を通して見えてきたのは、測定標準化の進展による広告効果の可視化と投資効率の向上、プログラマティック技術の進化による柔軟な配信、そしてクリエイティブとテクノロジーの融合による新たなOOH体験の創出という流れです。
特に「トリプルメディア戦略」(テレビ、デジタル、OOHの強みを活かした統合プランニング)の効果として、認知インサイト1.8倍、利用意向2.6倍、ブランドイメージ向上30ポイントという具体的な数値も示されており、OOHを他メディアと連携させることの効果が明確になっています。

「クロスメジャメント最前線:日本のOOHと統合プランニングが切り拓く次世代メディア戦略」より
また「場所価値の再定義」として、単なるリーチ数ではなく、文脈や体験を含めた場所の特性を活かした活用法も重要です。例えば渋谷区とパートナーシップ協定を結ぶニューバランスは、渋谷という街が持つ「発展途上・混合的カルチャー」の特性を活かした広告展開が行なわれています。

「OOHとブランドエクスペリエンス:空間価値の最適化」より
日本のOOH市場はグローバルスタンダードを取り入れつつも、鉄道広告やタクシー広告といった独自の強みを活かした発展が期待されます。業界全体の協力による測定標準化の取り組みが進む中、より効果的で創造的なOOH広告体験の実現に向けた動きが加速しているといえるでしょう。
今後は、AIやサステナビリティ、街全体をメディア化する発想など、生活者との接点をより豊かにする技術とアイデアが求められます。OOHがもたらす“偶然の出会い”の価値を再定義しながら、日本発のOOHイノベーションが世界へ広がっていく未来に、引き続き注目が集まります。