ナレッジコラム 交通広告で気づきを与える!エスエス製薬「EVE(イブ)」のカテゴリーエントリーポイント創出

駅広告

2025.10.14

解熱鎮痛薬の「EVE(イブ)」といえば、頭痛・生理痛の薬というイメージを持つ人が多いでしょう。しかし、そのイブが肩こり痛にも効果を発揮することは、まだ広く知られていません。この新たなベネフィットを生活者に届け、購買に繋げるという難題に対し、エスエス製薬株式会社が選んだのはOOH(交通広告・屋外広告)を起点としたコミュニケーション設計でした。 2025年8月18日から1週間、大阪駅前地下道で実施された「超酷な姿勢展」は、道行く人々の足を止め、SNS上で大きな話題を呼び、さらには店頭での品切れをも引き起こしました。なぜ同社はOOHを選んだのか。そして、OOHはいかにして生活者の心を動かし、新たな市場づくりに繋がる原動力となったのか。 今回は、エスエス製薬のブランド&イノベーションでイブ ブランドマネージャーを務める市川愛氏にお話を伺い、その戦略の裏側に迫ります。

OOHの役割とは?

エスエス製薬が抱えていた課題は明確でした。「解熱鎮痛薬で肩こり痛に対処する」という、生活者の選択肢にまだない新しい使い方、すなわち「カテゴリーエントリーポイント」をいかにして増やすか。これが最大の目的でした。

解熱鎮痛薬「イブスリーショットプレミアム」。イブシリーズで唯一、2つの鎮痛成分を配合したプレミアムのイブ

市川氏は、メディアの使い分けについて、目的達成のために各メディアの特性を最大限に活かすことが重要だと語ります。テレビCMやデジタル広告は広範なリーチに優れていますが、医薬品の広告には薬機法による厳しい表現規制が存在します。「イブが肩こり痛にも効く」という新しいメッセージは、既存の「頭痛・生理痛」の強力なイメージがある中で、単に情報を提示するだけでは生活者の心に響きにくいという壁がありました。
 一方で、OOHも同じ規制下にはあるものの、立体物やパフォーマンスといったリアルな接点で手触り感のあるコミュニケーションが可能です。これこそが、最もインパクトをもって気づきを与えることができると市川氏は確信しました。

 この選択の背景には、過去の成功事例で得たOOHへの絶対的な信頼感がありました。2024年4月に実施した「お守りEVE(イブ)」キャンペーンでは、お守り型のミニポーチがもらえるピールオフ広告を展開。これがSNS上でUGC(ユーザー生成コンテンツ)を爆発的に生み出し、キャンペーンサイトのサーバーがダウンするほどのアクセスが殺到したのです。市川氏は、この想像を絶する反響を目の当たりにし、OOHが持つ人々の心を動かし、行動を喚起する力の大きさを実感したそうです。

2024年4月に新宿駅で実施された「お守りEVE(イブ)」のピールオフ広告

この経験から、「イブが肩こり痛にも効く」という新たな市場を創造するためには、視覚的にインパクトがあり、かつSNSでの拡散が期待できるOOHこそが最適解であると判断されました。

「お盆明けの大阪駅」というタイミングと場所

今回の施策が実施されたのは、大阪駅前地下通中央エリア。平日も休日も多くの人が行き交う場所です。時期はお盆明けの1週間でした。この「場所」と「時期」の選定には、UGCの最大化を狙う緻密な戦略がありました。

 市川氏は、このタイミングの大阪駅を「一拠点でありながらマス的な使い方ができる、ベストな場所とタイミング」だったと振り返ります。その理由は、大きく二つのターゲット層に同時にアプローチできる点にありました。
 一つは、お盆休みを終え、仕事に復帰したビジネスパーソン。ビジネスの中心地である大阪駅には、まさに肩こり痛の潜在顧客が溢れています。そしてもう一つが、夏休みシーズンの観光客です。大阪万博が開催されているこのタイミングで、重い荷物を持って移動する全国から集まる観光客もまた、肩こり痛に悩まされやすい層です。
 この二つの異なる層が交差するお盆明けの大阪駅は、多様な人々からの共感を生み出し、UGCを広く拡散させる上で、日本国内でこれ以上ない条件を満たしたタイミングと場所といえます。

大阪駅に出現した”超酷”な人々

 こうして選ばれた最高の舞台で展開されたのが、解熱鎮痛薬「イブスリーショットプレミアム」のプロモーション「超酷な姿勢展」でした。地下道に設置された大型広告と、その前でパフォーマンスを繰り広げる彫像パフォーマーによって構成され、道行く人々の足を止めさせました。
 企画の核となったアイデアは、「長時間同じ姿勢でいることが、肩こりの原因になりうる」という事実を、いかにユニークな視点で伝えるか。その答えが「彫刻」でした。動かないことの象徴である「彫刻(ちょうこく)」と、肩が凝り固まるほどの「超酷(ちょうこく)な姿勢」をかけ合わせることで、課題を直感的かつ面白みのある形で表現しました。

大阪駅前地下道の大型ポスター前で、8/18, 23, 24の3日間、彫像パフォーマーによる「超酷な姿勢」パフォーマンスが実施された

 このアイデアは、実は一連のシリーズ施策の第2弾として位置づけられています。第1弾は、2025年1月に名古屋のランドマーク「ナナちゃん人形」とタイアップし、「長年同じ場所で立ちっぱなしのナナちゃんも肩こり痛を感じているかも」という切り口で展開。この時も「ナナちゃんかわいそう」「立ちっぱなしは肩に来るよね」といった共感のUGCが多数生まれ、大きな成功を収めました。

2025年1月に名古屋で実施された肩こり痛に苦しむ「ナナちゃん人形」

 その成功体験から、当初は他の有名なモニュメントとのコラボも検討しましたが、ことごとく断られてしまったという裏話も。そこで生まれたのが「それなら自分たちで彫刻を作ろう」という逆転の発想でした。このクリエイティブな飛躍が、彫像パフォーマーの起用へと繋がり、今回の成功の大きな要因となったのです。
 パフォーマーが表現したのは、「スマホ通勤」「デスクワーク」「花火大会」「立ち仕事」「観光客」という5つの日常シーン。大阪という土地柄を意識して「立ち仕事」にたこ焼き職人を加える遊び心も、多くの人々の共感と笑いを誘いました。

スマホ通勤:満員電車、吊り革、スマートフォン。首は前に傾き、肩に力がこもる。通勤という毎日の中で、その超酷な姿が習慣となっていく様を、象徴的に造形した作品

デスクワーク:画面の奥に広がる無限のタスク。それを凝視するうちに、背中はそっと前屈みになってゆく。 長時間の作業によって、自覚のないまま姿勢が固まっていく様は、まさに超酷である

花火大会:花火を見るひととき、誰もが体育座りのまま姿勢が固まる、季節の超酷。 「一瞬の感動を心待つ姿」と「固まり続ける背中」を象徴的に捉え、夏の風物詩に潜む陰影として表現している

立ち仕事(たこ焼き職人):鉄板を見つめ、たこ焼きを返し続ける職人たち。わずかに前屈みの姿勢のまま、何時間も作り続ける。 その超酷な姿勢に、大阪は支えられているのだ

観光客:カメラを構え、地図を開き、前のめりで街を歩く。 背負った荷物の重みが、肩を下げ、背中が丸まると、超酷な姿勢の完成。 この作品は、旅の自由さとは裏腹に、荷重によって制限される身体に注目した

会場内では、パフォーマーの脇に「魔法のコイン入れ」と題した仕掛けを設置。肩こり痛の原因として一番共感する姿勢に、付近で配布予定のコインを入れ投票すると、ずっと固まっていた姿勢が動き出すインタラクティブな演出を行なった

「超酷な姿勢展」を前に、多くの人が足を止めパフォーマンスを見入る様子が観察され、異様な盛り上がりを見せた

SNSでの熱狂から、店頭での完売へ

 「超酷な姿勢展」の効果は、リアルな場だけに留まりませんでした。エスエス製薬は、OOH施策と連動したSNSキャンペーンを2本立てで実施。これが起爆剤となり、UGCが多数発生。過去にないほどの参加者数を記録し、OOHで生まれた熱気がオンライン上でさらに拡がっていきました。
 市川氏は、OOHとSNSの連携によって認知から共感、購買意向の醸成までスムーズな流れを設計できたと語ります。実際に「次、肩こりがつらかったらイブを買ってみよう」といった具体的なコメントも多く見られ、確かな手応えを感じたそうです。

イブ公式Xで実施された「超酷な姿勢展 投票キャンペーン」。共感する「超酷」な姿勢に投票すると、抽選でプレゼントが当たる

 さらに本施策の特筆すべき点は、OOHと店頭販促の巧みな連携です。単にSNSで話題にするだけでなく、営業部門とも密に連携。施策実施前から、大阪駅近郊のドラッグストアにイベント告知を兼ねたPOSMを設置するなど、OOHで生まれた興味・関心を、実際の購買行動へと繋げる導線を確立しました。
 その効果は劇的でした。イベント会場の目の前にあったドラッグストアでは、期間中に「イブスリーショットプレミアム」が売り切れる事態が発生。これは、OOHが単なる認知獲得メディアではなく、ダイレクトに売上を動かす力を持つことを証明した瞬間でした。この成功は、小売店の反応にも好影響を与え、「分かりやすくて面白い」と多くの店舗が協力的になり、営業部門も「絶対に店頭でも成功させる」と実施前から異常なほどの盛り上がりを見せたといいます。

近隣店舗に設置された「イブスリーショットプレミアム」のPOSM。OOH同様「超酷な姿勢」が中心のクリエイティブとなっている。OOHと販促を連動させたのは同社にとってもほぼ初の試みだという

いかに立ち止まらせ、記憶に残すか?

 今回の成功を経て、市川氏はOOHの可能性を再認識したと熱を込めて語ります。OOHの最大の魅力を、一過性で終わらず生活者の記憶に残せる点、そしてSNSでの圧倒的な拡散力にあると分析します。見たことのない光景や面白いと感じたものをシェアしたくなるという心理が、他のメディアにはない強みを生み出していると考えているようです。

 一方で、OOHの最大の鍵であり最も難しい課題として、「いかに生活者の足を立ち止まらせるか」という点を挙げます。そのためには、日常風景に意図的に違和感を与えるような、戦略とクリエイティブが一体となった演出設計が不可欠であると考えています。
 イブには、肩こり痛以外にも、腰痛や歯の痛みなど、まだあまり知られていない多くの効果効能があります。エスエス製薬は今後も、OOHの持つインパクトと新たな気づきを与える力を最大限に活用し、解熱鎮痛薬の新たな価値提案を続けていきたいと意気込みます。

 今回の事例は、OOHが単なる広告媒体ではなく、生活者の行動変容を促す体験装置として機能し、SNSや店頭販促と連携することでビジネスインパクトを最大化できることを示した好例と言えるでしょう。今後、エスエス製薬がOOHを通じてどのような驚きを私たちに届けてくれるのか楽しみです。

このコラムの著者

株式会社unerry メディアサービス Manager/Oh! OOH!! 管理人 平井健一郎

広告代理店で交通広告の企画営業や新規事業開発、パブリックアートの普及振興を経験後、JR東日本グループにてOOHビジネスのDX推進に従事。2023年6月より現職にてリアル行動データを活かした街のメディア開発に携わる。交通広告グランプリ、Metro Ad Creative Awardなど受賞。「Oh! OOH!!」 では、街ナカで見かけた広告の事例を発信中。

関連記事