ナレッジコラム 【交通広告をつくる人 #04】交通広告をどう料理するか?――SNSでバズるOOHのレシピ
電車広告駅広告
2026.04.13
OOH(Out of Home Media)は、単なる告知媒体という枠を超え、SNSのタイムラインを彩る「被写体」としての存在感を強めています。誰もが情報の発信者になった時代に、街中の風景は瞬時にシェアされ、ときに数万リポストを超える話題に化けることもあります。SNSマーケティングの最前線で活躍するプランナーは、そんなリアルの場である交通広告をどう捉え、どう「料理」しているのでしょうか。 今回お話を伺ったのは、テテマーチ株式会社でプランナーを務めるふくままさひろ氏です。SNSアカウントの運用やキャンペーン設計を軸に、企業のマーケティングコミュニケーションを幅広く支援しており、大手代理店と協業してSNSパートを担当するケースから、クライアントに直接マーケティングコミュニケーション戦略から施策全般を任されるケースまで、幅広く手がけています。拡散のメカニズムから、デジタルにはないアナログの魅力、そして意外と知られていない媒体の柔軟性まで、SNSで話題になる可能性を高める「OOH活用のレシピ」に迫ります。
SNS時代のOOHとは? ― 「場所」と「公共性」がメッセージに意味を宿す
――マーケティングコミュニケーション全体を担われている中で、SNSを起点としながらもOOHを活用するケースが増えていると伺いました。どのような判断でOOHを取り入れているのでしょうか?
SNSを中心としたコミュニケーション設計においてOOHを活用する判断をするのは、「発信したいメッセージをその場所に置くことで、意味が生まれたり、表現の幅が広がったりする」と確信できたときです。
特に「好意度を上げたい」「メディアに取り上げられるようなニュースを作りたい」といった課題をいただいた際に、OOHを起爆剤としてご提案することが増えています。こうした案件では、UGC数(ユーザーによる投稿・リポスト数)やメディア掲載数をKPIに設定して設計を行います。フォロワー数やインプレッション数(広告表示回数)といったSNSの一般指標とは異なる軸で効果を測るのが、OOHを活用する案件の特徴です。
その根本にあるのは、SNSと公共空間では同じクリエイティブでも受け取られ方が決定的に違う、というシンプルな事実です。スマホの情報は基本的に1人で見るものであるため、あくまでもプライベートな空間上で、「自分1人が見る前提のクリエイティブ」というイメージ。一方でOOHは「自分以外の人も同時に見ている」という前提がある。たとえば、「周りを見てください」というメッセージがスマホに出てもピンとこないですよね。でも、渋谷のスクランブル交差点で同じ言葉が出れば、「今、この場所にいる群衆」を強烈に意識させることができます。
――なるほど。「場所」と「公共性」がメッセージに文脈を与えるわけですね。
はい。その場所に掲出されていること自体に意味が乗るのが、OOHの最大の強みだと思っています。
例えば、シオノギヘルスケアの解熱鎮痛薬「セデス」の事例(2023年)では、受験シーズンに合わせて、あえて駒場東大前駅に広告を掲出しました。クリエイティブはクイズ形式で「痛くなったらすぐに飲むのは何ですか?(ヒント:身長を一文字で言い換えると……)」というもの。「身長=背(せ)」→「せです」→「セデス」という言葉遊びで、ブランド名自体が答えになっているんです。サウンドロゴとして「痛くなったらすぐセデス」は知られていても、頭痛への効果がなかなか伝わっていないという課題がありました。そこをちょっとユーモラスにやろうというところで生まれた企画です。
これはもちろん受験生に向けたものですが、SNS上では「受験シーズンに東大の最寄り駅にこれが出ている」という事実そのものが面白がられ、受験生以外の層にも広く拡散されました。「いつ、どこに、誰に向けて出すか」という文脈が、SNS上のコンテンツとしてのパワーを何倍にも高めてくれるんです。
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駒場東大前駅に掲出された「セデス」の駅貼りポスター。 受験生だけでなく、SNS上でも多くの人に拡散された。
デジタルの逆張り ― 「ポスター」はなぜ撮りたくなるのか?
――SNSで拡散されるOOHには、どのような共通点があると感じますか?
個人的な感覚ですが、SNSで話題になりやすいのは、鮮やかなデジタルサイネージそのものというより、ポスターや立体物など“物として存在する”アナログな制作物だと思っています。紙の質感やサイズ感がその場の体験として伝わりやすく、「現場で見つけた感」が写真に乗りやすいんですよね。
一方でデジタルサイネージは、画面を撮影してSNSに載せると、現地で感じる迫力が伝わりにくいことがあります。テレビ画面を撮るとノイズが出たり、光のムラが出たりするのと同じで、再撮した瞬間に情報が少し削がれてしまう。そうした差が、撮られやすさや拡散のされ方に影響している気がします。
――非常に興味深い視点です。アナログな「物質感」が重要ということでしょうか。
そうですね。紙に印刷された物質としての広告のほうが、「リアルなものを切り取った」という感覚になれる。だからこそ、写真を撮ってシェアする心理的ハードルが下がる気がします。
アース製薬の「商品総選挙」のような事例も、アナログなポスターだからこそ映える企画でした。アース製薬の歴代商品を「選挙ポスター」風にデザインし、本社前にズラリと並べたものです。デジタルサイネージで映像として流すよりも、紙のポスターとして物理的にそこに貼られているほうが、圧倒的に「選挙感」や「実在感」が出ますよね。
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「アース製薬商品総選挙」で選挙ポスター板を掲出した事例(2023年)。「もしもアース製薬の商品が立候補したら?」というIFの世界を、あえてアナログなポスターで表現することでリアリティとユーモアを創出した。
バズを生む複数の「着火点」の設計 ― ユーザーの大喜利を誘発する
――意図して撮ってもらうための工夫や、逆に難しさを感じた経験はありますか?
話題づくりのための切り口(着火点)の設計が1つだけだと、意図した形で話題が拡がらないリスクがあります。そのため、着火点はなるべく複数設定し、SNS上のコミュニケーションにおいて余白を設けることを意識的に行なっています。事例を一つ紹介すると、BARTHのキャンペーンで実施した「寝顔募集広告」があります。「寝顔だらけの広告がつくりたい」というメッセージとともに一般の方から寝顔写真を募集し、集まった124名の寝顔で東京メトロ新宿駅の新宿メトロスーパープレミアムセットを埋め尽くしました。
この時、我々の想定とは全く違う方向から火がつきました。あるユーザーが「自分の推しとか担当の顔を晒せってこと?」というような、大喜利的な文脈で投稿してバズったんです(笑)。もちろん公式としてそれを推奨するわけにはいきませんが、ユーザーが面白がるポイントは千差万別です。「感動する」「ツッコミを入れる」「ネタにする」など、人によって異なる複数の感情スイッチ(着火点)をクリエイティブの中に散りばめておくことが、拡散の確率を高める秘訣だと学びました。
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BARTH「寝顔募集」キャンペーンのOOHに、新宿メトロスーパープレミアムセットを活用して巨大ポスターを掲出(2023年)。 一般公募で集まった124名の寝顔写真を駅貼りポスターとして掲出。単なる「いい話」に留まらず、SNS上でのツッコミや大喜利を誘発する「余白」が拡散を後押しした。
――最後に、今後のOOHへの要望や期待することを教えてください。
もっと「遊び」が許容されると嬉しいですね。ポスターの形が四角じゃなくてもいいとか、特殊な印刷加工で見る角度によって絵が変わるとか。決まった規格の中に納めるだけでなく、媒体の物理的な制約そのものをハックできるような余白があれば、クリエイターはもっと燃えると思います。また、媒体資料には載っていないけれど「実は使える隙間(SPメディア※)」みたいなものが、もっと手軽に相談できるといいですね。「ここを媒体にできたらいいのに」という思いはよくあるので、気軽に話せる窓口があると嬉しいです。
※SPメディア:駅の壁面や柱など、普段は広告スペースとして活用されていない場所に掲出するユニークな広告手法
「遊び心」を形にできるメディア
今回のお話を通じて見えてきたのは、「場所の文脈」と「公共性」こそがOOHをSNS上の強力なコンテンツへと変える原動力だということです。セデスの事例が示すように「いつ・どこに・誰に向けて出すか」の設計が効果を左右し、BARTHの事例が教えるように、複数の「着火点」を仕込んでおくことが予想外の拡散を生む。そしてアナログな物質感こそが、スマホで撮ってシェアしたくなる衝動を引き出す――ふくま氏の言葉によってそれを鮮やかに言語化していただきました。
「OOHは枠が決まっていて、自由度が低い」。もしそう感じているプランナーがいるとしたら、それは我々の情報発信不足かもしれません。ふくま氏が語った「遊び」を実現する土壌は、実はすでにOOHの中にあります。SP枠のようなイレギュラーな展開や、空間そのものをジャックするような大胆な施策も、メトロアドエージェンシーなどの指定代理店への相談一つで道が開けるケースは少なくありません。
アドターミナルでは今後も、クリエイターと交通メディアをつなぐ「実はできること」や「新しい料理法」を発信し続けていきたいと思います。




