知る・学ぶ/コラム人流ビッグデータとの掛け合わせで広がるOOHの可能性
電車広告駅広告
2024.06.24
交通広告・OOHに強みを持つメトロアドエージェンシーと、マーケティング・広告の専門メディア「AdverTimes.(アドタイ)」とのコラボレーションで、OOH領域の知見をより広く、深くお伝えしていく短期連載。 最終回は、unerryの平井健一郎氏が、OOHと人流ビッグデータの掛け合わせによってできることについて解説します。
人流の回復でOOH広告市場は復調へ
今年2月に発表された2023年 日本の広告費(電通)では、全体の広告市場が過去最高の7.3兆円を記録しました。依然としてインターネット市場の成長が続くことに加え、特に大きな伸びを見せたのがプロモーション広告市場です。その中でも、交通広告や屋外広告、イベントを合わせたOOH市場は8,183億円(※1)となり、前年比114.1%の成長となりました。
昨年は、5月のコロナ5類移行で実質的な外出制限がなくなり、人の外出が大きく回復した年でした。観光やレジャーといったお出かけ市場も回復し、人々がよりリアルな体験の大切さを数年ぶりに嚙み締めた年といえます。
OOHはその名の通り、「家庭の外」で触れるメディア全般を指します。そのため、人の外出や人流に最も影響を受けるメディアであり、人の外出や移動の総量がそのまま媒体価値に反映される特徴を持ちます。一方で、インプレッションやコンバージョンの計測が当たり前なインターネット広告と異なり、これまでOOHはこうしたデータの取得手段が確立しておらず、媒体の価値や効果を客観的な数字やデータで表すことが非常に難しいメディアとして扱われていました。
広がる人流ビッグデータの活用
前置きが長くなりましたが、私の所属するunerryでは、スマホ経由で取得される約3.9億IDの人流ビッグデータを保有するBeacon Bank事業を手掛けています。連続的に取得されるGPS由来の人流データから、ビーコン反応ログによる詳細の人の動きまで取得できるのが大きな特徴です。このデータを活用して、人々のリアルな行動を分析・可視化したり、行動に基づく広告配信を行ったりしています。
unerryではGPSとビーコンの組み合わせにより合計3.9億IDという規模で、網羅的な人流データを保有
リアルな空間をメディアとして活用するOOHとの掛け合わせでも、人流ビッグデータは効力を発揮します。
前述したようにOOHは「どんな人が何人接触したのかわからない」「媒体に接触した人が最終的にどんな行動を取ったのかわからない」といった課題を抱えてきました。このことによって、せっかく「OOH面白そう!」と思っていただけても、それらの価値や効果を十分にデータで示しきれていなかったことで、メディアプランニングの俎上に挙がる機会を逃すことも度々ありました。
そうした課題に対して、GPSによるエリア来訪者やビーコンによるメディア接触者を捕捉し、さらにその後の行動を計測できる人流データを活用することで、媒体の「価値」と「効果」を可視化することができます。
媒体の価値を可視化
OOH媒体の「価値」の可視化については、定量面/定性面いずれのアプローチも可能です。
人流データの活用で従来のOOHでは難しかった媒体価値と効果の可視化が実現できる。
■定量面
GPSやビーコンの計測範囲から媒体接触者の推計人数を算出することができます。このデータは特定の個人を識別できないIDとログ数でカウントされるため、各媒体事業者との連携により、最終的なユニーク人数(UUまたはリーチ)や延べ接触人数(imp)として推計して利用するこが可能です。
■定性面
一方で、OOHにおいては特に「その場所がどんな場所なのか?」「この場所に接触する人はどんな人なのか?」といった定性的な情報も非常に重要です。同じ1インプレッションでも、例えば表参道駅と上野駅ではその性質が大きくことなることは想像に難くないでしょう。人流ビッグデータを活用することで、媒体接触者の過去の移動履歴も分析することができます。
これにより「性/年代」や「居住地/勤務地」「行動DNA(グルメ、ファッションなどのカテゴリごとの興味関心度を偏差値で表したもの)」など属性の推定情報を媒体接触者に付与することができます。
例えば、メトロアドエージェンシーと共同で開発した「行動DNAアナライザー」を用いることで、東京メトロの駅ごとの定量/定性データを把握することができます。このダッシュボードで、表参道駅の「アクセサリーカテゴリ」の偏差値を確認しつつ、ほかにその指標の高い「中目黒」「明治神宮前」「目黒」「荻窪」などの駅を抽出し、ラグジュアリーブランドに対し複数の駅を活用した交通広告の提案などにご利用いただけます。
媒体の効果を可視化
一方で、広告主目線では広告に触れた人が最終的にどのような行動をしたのかの把握も重要です。位置情報技術によって、広告接触後の効果測定が可能な例を3つ紹介します。
■店舗送客効果
媒体接触者と、送客先の店舗来店者それぞれの人数を計測することで、媒体接触者のうち何%の人が実際に来店したのかの来店率を算出することができます。広告の施策前後や、媒体接触者と非接触者の比較によってOOH広告によるリフトを見ることも可能です。
■Web送客効果
人流ビッグデータとWebアクセスデータを共通IDで紐づけることが可能です。これにより、人流データ由来のOOH接触者が、その後実際にWebサイトへ来訪したのかを計測することができます。
■ブランドリフト
アンケートパネルデータを人流データと共通IDで紐づけることも可能です。これにより位置情報ログから媒体接触者に限定したアンケートを配信することで、非接触者と比較して商品認知や興味関心度がどのくらいリフトしているのかを見ることができます。
共通のユーザーIDをキーに人流ビッグデータとその他のデータを連携させることができる。
ここまで人流ビッグデータとOOHの掛け合わせによって、実現できる媒体価値や効果の可視化について述べてきましたが、いかがでしたでしょうか?
もちろん実際のOOHの実施に当たり、どのエリアのどのメディアに出稿するかに加え、どんなアイデアの広告を掲出するかが最重要であることは言うまでもありません。どんなによい場所のよい媒体であっても、そこに掲出される広告のインパクトが乏しかったりそもそもターゲットが合っていたりしなければ意味がありません。
今回ご紹介したように少なくともメディアの持つパワーを数字的に裏付けることは、以前よりも可能になってきました。また最近では、小売店の面を使うリテールメディアの成長で、店舗内のサイネージが増えていたり、訪日観光客の増加でインバウンドへのアプローチが重要視されていたりなど、OOHを取りまく環境でも新たなトレンドが生まれています。
データとメディアの掛け算によって、OOHを含む”リアルメディア”の可能性がますます広がっていく未来をぜひ皆様と一緒につくっていけたら幸いです。
※1)プロモーションメディア広告費のうち「交通広告」「屋外広告」「イベント・展示・映像ほか」を足した市場規模