事例コラム 2025&2026年のOOH事例から潮流を読む

電車広告駅広告屋外広告

2026.10.13

日本の総広告費は、8兆623億円(前年比105.1%)で4年連続で過去最高を更新(※)。プロモーションメディア広告費は、インバウンド需要や大型イベントの開催で人流が増加し、「屋外広告」や「交通広告」「POP」「イベント・展示・映像ほか」など人の動きに関わる分野で伸長。1兆7184億円(前年比102.0%)と、3年連続でプラス成長となった。改めて家の外(屋外や交通機関など)で接触する広告メディア=OOHの重要性が見直されている。リアルの場で五感を刺激する体験づくりが得意なメディアの代表格であるOOHは現在、単に「看板を掲出する媒体」から、SNSで拡散されることを前提とし、データ・体験・デジタル技術を活用したコミュニケーションメディアへと進化している。今回は25年と26年のOOH事例を振り返りながら、7つのキーワードで今後の潮流を展望した。 ※電通「2025年 日本の広告費」より。

目次

双方向性の高い仕掛け その場での「体験」重視

 「迫力を目にする」「音が鳴る」「実際に触って確かめる」―など、その場に行くことで五感を刺激、体験を重視するインタラクティブ性(=双方向性)の高い広告が活用されている。

 例えば、これまで広告は破損や汚れの恐れから「ふれないでください」と注意書きがされているケースがよく見られたが、近年は「ふれてみてください」と接触を促す広告が登場。JR東日本は「山形庄内夏の観光キャンペーン」にあわせ、庄内エリアの魅力をふれて感じられる装飾「さわって庄内」を、今年6月から渋谷駅で展開している。モチーフによっては音が鳴る仕掛けも施し、聴覚でも訴求した。

参考コラム
観光地の魅力を“触って伝える”|JR東日本「さわって庄内」の交通広告

JR東日本が渋谷駅で展開する「さわって庄内」の広告

 普段は手元で読む漫画を、あえて大きなOOHで展開した事例も。今年7月に新宿駅メトロプロムナードに展示された㈱白泉社の雑誌『LaLa』創刊50周年を記念した『めくれる巨大まんが』や、佐賀県の観光誘客プロジェクト「キングダム×(駆ける)佐賀県~佐賀の火を絶やすでないぞォ。~」の一環として今年1月から有明海を望む東与賀町の干潟よか公園に登場した、コミックスを一気読みできる『キングダム読破堤』はインパクトを与えた。

参考コラム
防波堤で漫画を“読破”|『キングダム』×佐賀県の観光誘客OOH施策

新宿駅メトロプロムナードに展示された『めくれる巨大まんが』

佐賀・干潟よか公園の『キングダム読破堤』

 代表的な体験型広告といえば、付箋やシールが貼られるピールオフ広告。生活者が持ち帰る、あるいは逆に貼り付けて一緒に作り上げる、コミュニケーション性の高い広告だ。

 また、デジタル技術も生活者とのコミュニケーションに大きく貢献。現地でビジョンにスマートフォンをかざすことで、そこでしか見られないコンテンツを放映する施策や、歩行者がビジョンに向かって手を振ると、ビジョンに映っているキャラクターがリアルタイムで反応する事例などが見られた。

特殊印刷広告を活用 表現の幅が拡大

 ミラー加工や、フラッシュ撮影をしたり、見る角度を変えたりすることでグラフィックが変化するものなど、特殊印刷技術でアナログ広告の表現の幅が拡大している。

 ㈱リクルートが運営する総合ブライダル情報サービス「ゼクシィ」は、25年1月から2月、新宿駅メトロプロムナードに、向かって右から見ると景色、左から見ると人物が浮かび上がるという、見る角度によって異なる写真が出現する交通広告を掲出した。

参考コラム
リクルート│パートナーが浮かび上がる広告。特殊印刷用い新宿に展開

「ゼクシィ」の見る角度によって異なる写真が出現する広告。上は景色、下は人物が出現した状態

 ANYCOLOR㈱が運営するVTuber/バーチャルライバーグループ「にじさんじ」は今年7月、叶さんのライブ「叶 2nd LIVE 孤独 -solitude-」開催に伴い、池袋駅構内にミラー加工を施した広告を掲出。公演タイトル「孤独 -solitude-」に沿った広告デザインは、群衆の中でミラー部分に他者が映り込むことによって、「一人」から「独り」へと変化し、群衆の中に居るときこそ感じられる感覚を表現した。

ミラー加工を施した「叶 2nd LIVE 孤独 -solitude-」の広告

アイデア勝負の中づり 素材、形状でインパクト

 電車内の「中づり広告」は、乗客の視線を自然に集める高い強制視認性と、移動中の長い接触時間が特徴。素材や形状を変えるなどのアイデア次第で強いインパクトが与えられる。

 ユニバーサルミュージック(合)のMrs. GREEN APPLEの「CD聴こうよ。」キャンペーンで25年6月から7月にJR山手線内に掲出された、CDをカバーから取り出したようなクリエイティブ。CDの変形部分にはモノであることを強調する光沢のある印刷がされた。

参考コラム
「CD聴こうよ。」Mrs. GREEN APPLEが仕掛けた10周年CDリリース記念の交通広告キャンペーン

Mrs. GREEN APPLEのCDをカバーから取り出したようなクリエイティブ

 ㈱PR TIMESは今年4月、JR山手線を個人・企業・団体・自治体から集まった計4505件の夢でジャックする「Dreamトレイン」を運行。フィルムくり抜き加工をした中づりや、立体の桜に著名人11人の直筆の夢を転写するなどの展開をした。

参考コラム
中づりが桜の木に|PR TIMES「Dreamトレイン」が生んだ参加型OOH

PR TIMESの「Dreamトレイン」ではの立体の桜に著名人の夢を転写

 今年4月、東京メトロ銀座線・丸ノ内線内に掲出された㈱ニチレイフーズによるニチレイ『本格炒め炒飯』の中づり広告はスイングポップを活用。揺れるレンゲと、中華鍋で炒める炒飯を表現した。

ニチレイ『本格炒め炒飯』の中づり広告はスイングポップで揺れるレンゲなど躍動感を表現

 今年6月から7月、㈱電通名鉄コミュニケーションズは名古屋鉄道車内で、遺失物の廃棄予定ビニール傘を活用した「オバケ中吊り」広告をはじめとした『GHOSTrain(ゴーストレイン)』を企画。鉄道会社の忘れ物問題と、社会課題であるプラスチック廃棄を掛け合わせた施策だった。

参考コラム
“オバケ中吊り”が話題に|廃棄予定の傘を広告に変えた名鉄のOOH施策

廃棄予定ビニール傘を活用した「オバケ中吊り」広告

様々な形状のデジタル広告 空間そのものを媒体化へ

 主要駅や駅周りなどの媒体ではビジョン化・サイネージ化が進行している。近年は規格サイズのものをただ設置するのではなく、様々な形状のものをその空間に合わせて設計。「空間そのものを媒体にする」開発が浸透しつつあるようだ。

 25年10月に東武池袋駅南口地下コンコースに誕生した円柱型ビジョン「東武池袋ラウンドワイドビジョン」。もともと円柱型のポスターボードだったが、時代の潮流に合わせ改修。オブジェクトが回転する映像など、円柱だからこそできる演出・クリエイティブが出稿されている。
 25年10月に運用開始した、渋谷スクランブルスクエア アーバン・コア地下2階に設置された横長の媒体「渋谷スクランブルスクエア UCチカビジョン」は、一枚の平面ではなく、壁面に追従するように折れ点(角)を持ち、通行者にインパクトを与えている。

東武池袋駅南口地下の「東武池袋ラウンドワイドビジョン」

 また、スマホの画角と相性の良い縦長の媒体も増えている。㈱伊勢半は25年3月、自社ブランド「ヒロインメイク」の20周年を記念し、渋谷センター街ヒットビジョンで肉眼3D映像を放映した。こちらの媒体は縦長かつ、飛び出して見える映像が作りやすいよう左右に折れ点がある。

参考コラム
ヒロインメイク20周年で話題沸騰!渋谷の3Dビジョンを活用した交通広告とは?

「ヒロインメイク」20周年を記念し渋谷センター街で放映された肉眼3D映像

 目線に近い高さの箱型ビジョンに関しては、飛び出すように見える設計が難しいが、奥行きを持たせた肉眼3D表現などで工夫している様子がうかがえる。

 一方で、一般的でない比率の画面でデザインする難しさがネックになるケースもある。横長や球体LEDビジョンのように素材作りが複雑なものは、広告出稿が振るわなかったという話も聞く。ただ、静止画・動画、縦長・横長と様々なバリエーションでデザインの作り替えの手間を惜しまないクライアントもあり、企画次第で活用できる可能性がある。

デジタル化に逆行 ライブや手描きで付加価値

 ペイントや書道のライブパフォーマンスをして、イベント化することで体験型広告の価値を生み出す方法も支持されている。広告掲出場所をライブ会場化して、その場に足を運ぶ体験価値を創出できる施策だ。

 建物の壁面や公共スペースに描かれる大規模な壁画であるミューラルアート。落書きとは異なり、所有者の許可を得て合法的に制作され、近年は地域活性化や都市の景観向上、企業の広告などに活用されている。
 ライブパフォーマンスは、スポーツイベントのプロモーションと相性がいいようだ。今年3月、渋谷のMIYASHITA PARKで壁画アーティストOVER ALLsが「2026 WORLD BASEBALL CLASSIC」に出場した選手の壁画をライブペイント。会場には多くの野球ファンが集まった。

渋谷MIYASHITA PARKでライブペイントされた「2026 WORLD BASEBALL CLASSIC」に出場した選手の壁画

 また今年7月には、渋谷のMAGNET by SHIBUYA109で(公財)日本サッカー協会が広告を掲出。書道家・岡西佑奈さんがライブ書道で、SAMURAI BLUEを支えたファン・サポーターから寄せられたメッセージを書き入れ「♯夢をつなぐ応援フラッグ」を完成させた。

渋谷のMAGNET by SHIBUYA109で書道パフォーマンスにより完成した「#夢をつなぐ応援フラッグ」

応援広告の解釈が拡大 企業も取り入れた施策を

 応援広告とは、アイドルやアーティスト、アニメのキャラクターなどのファンが、自分たちの“推し”を応援するために費用を出し合って駅や街頭ビジョンなどに掲出する広告。㈱ジェイアール東日本企画の運営する応援広告事務局(Cheering AD)の「推し活・応援広告調査2025」によると、応援広告のポテンシャル市場は1283億円規模にまで拡大していると推計される。ポスター1枚の出稿から、商業施設のエントランスや遊園地そのものをジャックするなど、大規模な事例も見られる。

 例えばグローバルボーイズグループ「JO1」のメンバー、川尻蓮さんのファン団体「REN’s BACKERS」は今年3月から4月、大阪の遊園地「ひらかたパーク」をジャックする応援広告企画を展開した。

JO1・川尻蓮さんのファン団体によるひらかたパークジャック

 また、25年7月から8月に関内駅や桜木町駅に掲出された「ももクロ夏のバカ騒ぎ2025」コラボ広告はJR東日本が主導。「応援広告は情報の不透明性から参加しにくい」というファンのため、企業がバックアップするという企画だった。

参考コラム
JR東日本│『ももクロ』広告を2駅に掲出。ライブ最寄駅で推し活を後押し

JR東日本が主導した「ももクロ夏のバカ騒ぎ2025」コラボ広告

 応援広告の認知度拡大に伴い、企業も「応援広告風」デザインの広告を出稿。アンバサダーやモデルを務めるタレントと一緒に商品も宣伝している事例もある。読売テレビ放送㈱は25年11月、新宿駅に、ドラマ「推しの殺人」に登場するアイドルグループ「ベイビー★スターライト」の「応援広告風」広告を掲出した。

参考コラム
応援広告“風”でドラマをプロモーション|「推しの殺人」が仕掛けたリアル連動OOH

ドラマ「推しの殺人」に登場するアイドルグループの「応援広告風」広告

広告を探して街を回遊 「宝探し」企画でSNS拡散

 OOH連動型プロモーションなど、街を探索しながらユーザーに広告を探してもらう企画は、回遊性と話題性を高め、SNSでの拡散を生む強力な施策。新規ファンの獲得に加え、コンテンツの既存ファンに対しては「全部見たい」「推しのビジュアルと撮影したい」とコレクション欲を高め、エンゲージメント強化も狙える。

 25年12月から㈱講談社は、東京・池袋周辺で『ちいかわ』特製電柱広告を掲出。近隣にある常設体験型施設『ちいかわパーク』来場者が無理なく巡れる範囲に分散配置。“宝探し”の要素を組み込んだ回遊型のOOH施策とした。

参考コラム
電柱広告ってどう使う?『ちいかわ』事例に学ぶ回遊型OOHのつくり方

25年から池袋周辺で掲出している『ちいかわ』特製電柱広告

 ㈱ロッテは今年3月、コアラのマーチの屋外広告展開およびイベント「コアラの街」企画を原宿エリアで開催。原宿の街に合う作風のクリエイターを採用し、街中に様々なタッチの「コアラのマーチ」ポスターを掲出。「ポスターハント」として街を回遊させる仕掛けを作った。

 また漫画・アニメ作品のプロモーションとして、駅ごとに違うキャラなどを掲出し、ファンに電車を使った旅をうながす広告企画も実施されている。

参考コラム
SNS投稿・口コミが広がった理由|コアラのマーチ回遊型OOH施策

原宿エリアで開催した「コアラの街」

 

※本記事は『総合報道』2026年8月5日号に掲載されたものです

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